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ミシェル・ダルベルト ビヨンド・センチュリーズ |
【 2010年5月18日(火) at 王子ホール 】 ■ J.S.バッハ:「平均律クラヴィーア曲集 第1巻」より 前奏曲とフーガ 嬰ハ短調 BMV849 ■ メンデルスゾーン:厳格な変奏曲 ニ短調 Op.54 ■ J.S.バッハ / ブゾーニ:オルガン・コラール ヘ短調 BWV639 ■ リスト:バッハのカンタータ「泣き、嘆き、憂い、おののき」と ロ短調ミサ曲の「十字架につけられ」の通奏低音による変奏曲 ■ シューマン:3つの幻想的小曲 Op.111 ■ ブラームス:「バラード集」より 第1番 ニ短調 Op.10-1 ■ シューベルト:「3つのピアノ曲」より 第1番 変ホ短調 D946-1 ■ ブラームス:「4つの小品」より 第1番 ロ短調 Op.119-1 ■ シェーンベルク:6つの小さなピアノ曲 Op.19 ■ リスト:ベッリーニ「ノルマ」の回想 アンコール ■ ショパン:プレリュード Op.45 ■ ドビュッシー:映像 第1集より 水に映る影 ■ シューベルト / R.シュトラウス:クーペルウィーザー・ワルツ |
微妙に会社を出ることが出来ず、完全に遅刻するだろうと思っていました。 ですが乗り換えや銀座の駅(丸ノ内線下車←改札口から王子ホールのある出口までとても遠いです)で一生懸命走った効果があったのか、奇跡的に5分前にホールへ着きました。 もう、汗だくです… 周りの方、申し訳ありませんでした。 本日の会場、王子ホールは2日前の碧南エメラルドーホールよりもさらに小さい315席のホールです。どのお席に座っても、演奏家の音色を独り占め出来てしまうのではないでしょうか♪ 王子ホールの会員さんなのか、いつもより客席の年齢層が高かったように感じます。特に前列中央付近はおじさま・おばさまばかりのようでした。 私は右サイドの前の方の席でした。 そのため、ダルベルト先生の額から上と足だけがよく見える席でした。お顔が全く見えない(涙) 友人が「ダルベルトさんのペダリングはすごいよ!」と言っていたことを思い出し、せっかくなので分からないなりにも足の動きを目に焼き付けておこうと思いました。ここはプラス思考に行かなくては。 ダルベルト先生が舞台に登場! 本日はダークグレーのスーツ、胸に先生の瞳と同じ水色のポケットチーフを少しのぞかせていました。素敵! >私はスーツ姿のダルベルト先生が好きです(笑) この王子ホール公演は「ビヨンド・センチュリーズ(世紀を超えて)」というタイトルがついておりまして、私にとっては10年早いのではないだろうか…と思えるような曲目がずらり。この中で知っている曲は果たして何曲あるのだろうか、という世界です。 余談ですが、色々な作曲家が挙がっているので予習用の曲を集めるのに何枚のCDが必要だったか。それぞれ1曲のために一気にCDが増えてしまいました(苦笑) この難しいリサイタルの最初の曲はバッハの「平均律クラヴィーア曲集 第1巻」より。 初めて聴く曲ではありませんが、ピアノを良く知らない私にとってはピアノの教科書?!と思えるような(CDを見ても『第1巻』だけでチャプターが24もずらっとならんでいるし…!)、とっつきにくい曲。 流し聴きなら抵抗はないのですが、きちんと聴こうとするとちょっと苦痛です。 ですが、予習をしていて意外なことに気づきました。 今回ダルベルト先生が弾く曲だけを抜き出して聴いてみると、今まで『難解』だった教科書みたいな曲が、1つの作品として認識できたのです(笑)1つ1つは きちんとした作品だったのか…と。 実際ダルベルト先生の演奏を聴きますと、バッハの曲に先生らしさが加わっていて(具体的には説明できないのですが、リズムや音の流れが先生らしいといいますか)、先生のリズムに乗せられてあっという間に終わってしまいました。次のメンデルスゾーン以降もそうでしたが、ずっと先生の鼻歌が聴こえたような気がします… なので、その先生の気持ちと一緒になって聴き入ってしまったのだと思います。 メンデルスゾーンの厳格な変奏曲になると さらに先生の気合いが増し、先日の碧南ホールで気付いた「変奏」という、テーマを元に次々と曲が変わっていくその変化の過程を楽しむことが出来ました。 私の座った右側の席は、先生のピアノの音がダイレクトに耳に飛び込んでくるお席でして(汗)、すごいの何のって… 迫力満点。1つ1つの音を出すために鍵盤に指を押しあてる、その勢いと息遣いまでもが伝わってくるようでした。 そのお席のせいもあるのかもしれませんが、王子ホールの規模は先生にとっては少し小さすぎるかな…と。(かといってすみだトリフォニーの大ホールは大きすぎて嫌ですが。) ホール中に先生の音が溢れていて(密度で言うと120%位)、先生の音の間から次の音が生まれてくるような、ちょっと環境が贅沢すぎたかな、と思いました。先生の大きな世界がこのホールでは入りきらない感じ。悪く言えば、前後の音のメリハリ感が欠けてしまったような気がします。常に100の状態を超えてしまっているので、休まる状態が無いといいますか。 でもそれは本当に些細な比較上のことですが。>素敵なことには間違えありません! しっとりとバッハのオルガンコーラルを弾かれ(まるで音がピアノでは無いみたいです! 教会のオルガンのよう。厳粛な空気で溢れておりました)、そのまま気持ちを集中して続いてリストのバッハのカンタータへ。 私の前の席のおじさまだけが、その空気を破って1人で拍手していましたが(怒) 正確に言いますと、「あれ、間違っちゃったかな?!」と本人2拍手目位で気付いたと思うのですが、拍手してしまった手前、止めるに止められなかったのではと推測します。そんな感じでした。とてもクラシックがお好きな方のようでした。 バッハのカンタータは、ベッリーニ「ノルマ」の回想の次に楽しみにしていた曲ですv 最後の方で盛り上がる所も格好良いのですが(そんな聴き方しか出来ない私、涙)、最後の最後で目の前がぱぁっと開けて 新しい世界が始まるような、もっと大げさに表現してしまいますと 世の中の罪が全て許されてリセットされてしまうような、感動的なラストが好き。 もちろんダルベルト先生の演奏も、広い心で客席の私たちを受け止めてくれるようなラストで、清々しい気持ちで前半が終わりました。 小柄なダルベルト先生なのに、音楽の世界はとても大きいのですよね〜vvv 後半。 後半のプログラムは曲の切れ目が分からない部分もあり、プログラムを見ながら聴きました(汗) 左隣の女性はプログラム…というよりも、中の解説部分を演奏中ずっと読んでいて、「目の前にダルベルト先生の演奏があるというのに、何で今 文章を夢中になって読まなくてはいけないのだろう」と不思議に思っていたのですが、家に帰ってプログラムを見てみた所、今回ダルベルト先生御自身の言葉による解説が書かれていたのでした。>嬉しい〜vvv 先生の言葉、たくさん読みたいです。 リサイタルが終わって「これ」を書いている現在、もう数週間経っているのですが、今も頭の中を駆け巡るダルベルト先生の旋律は、一番楽しみにしていたベッリーニ「ノルマ」の回想と、そして不思議なことにブラームスの「バラード集」第1番です。このブラームスでのダルベルト先生の「ダダダダン!」という力強い音と振動が、頭から離れないのです。 シューマンの3つの幻想的小曲の後、拍手の中お辞儀をし、ダルベルト先生はしばらく時間をかけて次の曲(ブラームスのバラード)のイメージ作りに集中されているようでした。 聴き手のこちらも期待が高まります。 このブラームスの4つのバラードop.10 は、ダルベルト先生も昔アルバムを出されています。 27歳頃に録音されたようなのですが、こちらは最初から少し強めで弾かれている気がします。ピアノの音の出し方とか 1音1音に対するこだわりとか 全体の流れとかは、今も昔も「ダルベルト先生」という気がしてどちらも好きですv この日の、「今」のダルベルト先生は、最初 気持ち抑え気味で音を出して、徐々に盛り上げて行ったように記憶しています。音と音の間を楽しむような感じも伝わって来ました。 なので、余計に「ダダダダン!」が印象に残ったのではないかと思います。>格好良かったです! CDよりも、大人な感じのする演奏でした♪ 私の席からはダルベルト先生の手は見えていなかったのに、記憶の中ではダルベルト先生の手の動きが焼き付いているのですよね。 一度舞台から退場し、続くシューベルトの「3つのピアノ曲」では、恐らく多くの方がダルベルト先生の『シューベルト』を楽しみにしていたのではないかという空気に。>客席からのワクワク感が伝わって来ました。 私はダルベルト先生のソロとして初めて聴いた曲がこの曲なので、その時のことを思い出しました。シューベルトがテーマの年のラ・フォル・ジュルネです。この第1番の次に、ピアノソナタの第19番を弾かれたのでした。 あの時は小さな会議室の1列目で聴いて、ダルベルト先生のダイレクトな音が衝撃的でした。 こうなってくると、ピアノソナタの20番、21番の思い出まで溢れてきます。 この王子ホールからラ・フォル・ジュルネの会場の東京国際フォーラムまで歩いて行けるんだよな… なんてことまで、色々なことが頭の中を横切って行きました。>曲に集中出来ていないし! 続くブラームス「4つの小品」という曲は、私は予習をしていなかったので 曲の切れ目が元々分かりませんでした。 ですが、ふと気付くとシェーンベルクになっていたのです! シェーンベルクは「現代音楽」といった感じで、私には30年位早いのではないかと思える曲なのですが、それはダルベルト先生が弾いて下さっても変わりませんでした。自分がその曲にどう入って行けばいいのか分かりません〜(汗) 目の前の演奏を受け止めるしかありませんでした。 先生の解説によると、「ブラームスの『4つの小品 Op.119』の最初の曲はシェーンベルクに大きな感動を与えることになり、シェーンベルクはブラームスのオマージュとして『6つの小さなピアノ曲 Op.19』を作曲しました。」とあります。 曲の切れ目に気付かなかった自分を棚に上げる訳ではありませんが、ひょっとしたら先生、そのままブラームスとシェーンベルクを意識的につなげて弾かれたのかなぁ…なんて思ったりしています(笑) 全体的な流れと言いますか空気のようなものがずっと一定だったように感じたので。 何となくなのですが。 最後は待ちに待った、リストのベッリーニ「ノルマ」の回想! ダルベルト先生炸裂! 音的には先日の碧南公演の方が良かったかなぁと思うのですが(とにかくお席の関係で、先生の音色がぐゎんぐゎんに耳に届きますもので…苦笑)、体いっぱいにリストの世界を吸収することが出来たので大満足です。幸せでした♪ …欲を言えば、もう一度聴きたいです。。。 アンコールを弾かれる前に先生が英語でお話されたのですが、私が先生のお顔だけで理解した所によると(なので全然正確ではありませんが、汗)、「今日は世紀を超えた作曲家のつながりを少しずつ表現してみましたが、次に弾きますショパンの曲もドビュッシーに大きなインスピレーションを与えました」とか何とか。>勝手な解釈ですので信じないでください。 「peace」という単語が多く使われていて、ショパン…ドビュッシー…位しか聴き取れなくて(汗) ショパンのプレリュードを弾かれると、今度は笑いながら「で、次はそのドビュッシーです」と言われて(これも想像です)ドビュッシーの「水に映る影」。 2年前のすみだトリフォニーでのリサイタルのプログラムにあった曲ですが、いい曲ですね! (私はこの曲を聴くとミシェル・ベロフ先生のスーパー・ピアノレッスンを思い出します←オープニングに使われていた曲です) 本当の最後はシューベルトのクッペルヴィザー・ワルツ。 ラ・フォル・ジュルネと同じじゃないですか(涙、2年前のラ・フォル・ジュルネのアンコールもクッペルヴィザー・ワルツでした)!!! あの時の公演が全部終わった時の最後の嬉しいけど悲しいような複雑な気持ちを思い出してしまいました。曲そのものは、可愛くてとても素敵なワルツなのですが♪ 先生のアンコール・ピースの1つで、この曲を巡るシューベルトとリヒャルト・シュトラウスの不思議な因縁についても今回のパンフレットに解説されていました。 とてもとても内容の濃い、充実した、そしてお腹がいっぱいになった公演でした。 曲が分からない私でも、先生のピアノの力で楽しめてしまったのがすごい! これだけたくさんの曲を弾いた後も、ダルベルト先生はサイン会をして下さいました。 王子ホールのコンサートホールは2階にありまして、サイン会は1階であったのですが(3階が演奏者の控室)。 スタッフの方が1階のエレベーター入口でダルベルト先生が下りて来るのを待っていた所、先生は隣の階段からお話しながら下りてきて、ごく普通に私たちが並ぶ列に入って来たのでした。 普通すぎて、最初周りの方はほとんど気付かなかった位… 私の周りでは、先生の演奏に大興奮されたおばさま方が大変多かったですv 「すみだトリフォニーでのリサイタルもすごかったのよ!」とか、「次も絶対行きたいから、日程が決まったら教えて!」と言っている方とか。 先生の辞書には「疲れ」という文字はないのですか?! と聴きたい位に、終始笑顔でサインや握手、お写真に応じて下さるダルベルト先生。 何度言っても言い足りないですが、本当にありがとうございました! この公演を聴きに来ることが出来たことにも感謝をしつつ、王子ホールを後にしました。
2010年6月5日 記 |
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