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〈 春を告げる! トッパンホールのヴァイオリン3 〉
ワディム・レーピン
【 2010年3月30日(火) at トッパンホール 】
ヴァイオリン : ワディム・レーピン / ピアノ : イタマール・ゴラン


■ ドビュッシー : ヴァイオリン・ソナタ
■ ストラヴィンスキー : ディヴェルティメント
■ アルヴォ・ペルト : フラトレス
■ ベートーヴェン : ヴァイオリン・ソナタ第7番 ハ短調 Op.30-2

アンコール
■ ショスタコーヴィチ(ツィガーノフ編) : 24の前奏曲より Op.34-17
■ チャイコフスキー : 感傷的なワルツ
■ ブラームス : ハンガリー舞曲第7番
行くコンサート全てが今日のような演奏に出会えていたら、人生楽しくて、楽しくて、幸せすぎて申し分ないだろうなぁ… と思う、とても素晴らしいコンサートでした!
聴きに行けたことがとにかく嬉しいです。生演奏が聴けたことが嬉しい。
この巡り合わせに大感謝ですv

本日はまだ社内には働いている人が多数いたのですが(9割以上! 帰った人を数えた方が早い位)、そこは見なかったことにして、さっさと帰り支度をしてホールに向かいました。

トッパンホール。
一度行ったことのあるホールですが、道に迷った記憶があります。分かりづらい飯田橋の交差点(これ、迷うのですよ〜涙)の方向だけは覚えたので、今日は大丈夫だぞ! と自信を持って行きました。
ですが、歩いても歩いてもホールが見えません。方角に自信はあったのですが、さすがに心配になってコンビニエンスストアで場所を確認しました(苦笑)
店員さんの話では、この道をまだまだ先とのこと。説明を受けて歩いてもまだホールが見えないので、さらに心配になりながら、やっとのことでホールに着きました。
飯田橋駅からとても遠いホールでした(徒歩13分位)。よく覚えておきたいと思います。

本日の会場は老若男女、程良く入り混じっていたように感じました。私の席の周りはそうでした。
トッパンホールの座席数は408。チケットは一般販売で30分後には売切れでした。私もキャンセル待ちで運良く聴きに行くことが出来ました。だから、尚更今日の演奏に出会えたことが嬉しくて仕方がないのです。

舞台が明るくなると、扉の向こうでヴァイオリンを軽くチューニングする音色が聴こえ始めました(客席の私たちのワクワク感は高まります)。

そしてレーピンさんとゴランさんが登場!
私が前回レーピンさんのリサイタルへ行ったのが2006年。この時も伴奏はゴランさんでした。
約4年ぶりのレーピンさん。…大きい方ですね!
>こう書いては失礼かと思いますが、熊みたいでした(イメージが)。私の頭が100%「熊」という文字で埋め尽くされました。もちろん良い意味で、です。
そして、私の記憶にあるお姿よりも、かなり「大人」な感じがしました。髪のせいかな。
黒いスーツ…というよりも、生地が少し楽に動けそうな柔らかい感じに見えて、ラフなジャケット(という表現で合っているでしょうか)という身なりでした。

ゴランさんは私の中では「ピチピチ・ムチムチのスーツ着用」というイメージがあるのですが、引き締まったお体がさらにスリムになられたのか、スーツを一回り大きくされたのか、本日は丁度良いサイズのスーツを身にまとっていらっしゃいました。
ゴランさんは両足をがっつり広げて、「押忍!」 という感じでお辞儀をされるのが特徴です(笑)

1曲目のドビュッシーのソナタ。
私にはモネの絵画が頭に浮かび、水面にキラキラ反射する光をイメージする曲です。
ですが、本日のお二人のドビュッシーは全然違いました(笑) 印象派というよりも3Dというか、静よりも動というか、心の中でしんみりと…というよりも、スポーツ的な、聴いている自分たちも体力使って聴かなくちゃ、みたいな演奏でした。とても面白かったです。時々心にグッとくる盛り上がりがあったり。4年前を思い出しましたが、レーピンさんは一音一音をしっかりと表現される方でした。ヴァイオリンが生み出す旋律は、言葉のように私たちにも伝わってきました。
レーピンさんは第一楽章で弓の毛を切られていました(ドビュッシーでですよ!)。この曲に対する気合いが伝わってきました。

ゴランさんの伴奏も、今まで同様少しクセがあって、私はちょっと苦手かな…という感じなのですが、 2人の息はぴったりでした。ドビュッシーのソナタは大抵途中で眠くなるのですが、本日はあっという間に終わってしまいました。

トッパンホールは先程述べましたように小規模のホールですので、私は真ん中あたりの席だったのですが、そこでもレーピンさんのヴァイオリンの生音が届くかのようでした。レーピンさんの馬力ではこのホールは小さすぎるのかな、と最初は感じました(聴ける私たちは贅沢すぎですv)。レーピンさんとゴランさんの音が、ホール全体に密度濃く埋め尽くされました。

2曲目が私が楽しみにしていたストラヴィンスキーのディヴェルティメント。
以前、Webラジオでレーピンさんとルガンスキーさんの演奏を聴いて、強い衝撃を受けた曲です(非常に素晴らしかった)。当時はこの録音を何度も繰り返し聴いていました。
これはストラヴィンスキーのバレエ音楽「妖精の口づけ」の中の音楽をヴァイオリンとピアノ用に編曲した(ストラヴィンスキー自身も編曲に関わったとのことです)もの。オーケストラ版もあるのですが、私は放送前、ジャナンドレア・ノセダ指揮・BBCフィルの来日時に そのオーケストラ版を嫌というほど聴き、自然と曲を覚えてしまいました。
そのオーケストラの世界を、レーピンさん&ルガンスキーさんはヴァイオリンとピアノで完璧なまでに表現されていたので、びっくりしたのです。

今日も本当はルガンスキーさんのピアノで聴きたかったなぁと。ゴランさんちょっと苦手だし… なんて思っていたのですが。

ゴランさん、ストラヴィンスキー 合うわぁ…!!!

素っっっ晴らしかったです(涙)
ゴランさん無くして、あの演奏は無かったと思います。もう、ゴランさんの好感度が一気に上がり、その後のゴランさんの伴奏は全て良かったですv (単純な私。)
ゴランさんのオーバーなまでの力の入った弾き方は、ストラヴィンスキーの音楽の前では丁度良くて、聴いていてドキドキしてしまいました。「そうそう、私が聴きたかったのは これなのよっ!」と。

まず、レーピンさんとゴランさんのコンビネーションの良さを改めて感じ、お互いが色々な楽器の音色をヴァイオリンとピアノで生み出して言葉を交わし、舞台上はまるでオーケストラが構えているかのようでした。
グリッサンドと言うのでしょうか。音を段々と大きくしたり小さくしたりすること。レーピンさんはこの表現が抜群に上手いですね。(元々、ヴァイオリンが手の一部であるかのように表現が自由自在な方で、聴いているこちらは空いた口が塞がりませんでしたが! 全てがすごすぎて。)
ヴァイオリンってここまで音が出るの?! と思う位に盛り上げることが出来る。
まるでオーケストラが嫌味の無い大音量(管とかが潰れていないと言いますか)でクライマックスを表現するかのようでした。

この曲の最初の方で、ヴァイオリンの音が金管に聴こえる私の大好きな部分があるのですが、この部分をレーピンさんは実際どのようにして音を出されるのか楽しみにしておりました。
そうしたらその部分。左手で楽譜をめくりながら(確か)、普通に(実際普通ではないのでしょうがレーピンさんには当たり前のことのように)弓を当てて いとも簡単に音を出されていました。ヴァイオリンなのに、どうして色々な音が出るのか、結局最後まで不思議なままでした。

最初から最後までこの曲は大好きなので、もう、全てが感激で思い出しても全てが「良かった」としか言いようがないのですが、第4楽章「パ・ド・ドゥ」のラスト。
盛り上がるヴァイオリンとピアノには涙、涙でした。ゴランさん、格好良すぎ!
涙はともかく 仮に鼻血が出たとしても、何の不思議もない位の状況でした。
音楽万歳! ストラヴィンスキー万歳! トッパンホール万歳! ウラー!

最近読んでいる本から引用をさせて下さい。

 考えてもみたまえ。美しい作品がその真価、その壮麗さを完全に発揮するには、どれほどの条件が一致しなければならないことだろう! まず深い偉大な着想、作品の理想性。つぎに表現の熟成。第三に演奏家の並々ならぬ技倆、たった一つの霊から生まれたのかと思われるほど、調和のとれた共演。第四に、与えるものと受けとるものの内面的渇望と要求が、ちょうどその時最も具合良く調和していること(聴衆と芸術家の双方から)。第五に時間の関係と、場所その他に附属的な環境というような特殊な契機が、最も都合の良い状態にあること。第六に印象、感情、見解の伝わり方―― まわりの人の眼に反映する芸術の喜び――。こうしたいろいろな事情がうまく一致するのは、六個のサイコロを一度にふって、六ばかり六つ出すようなものではなかろうか。
                                  ―――  オイゼビウス


「音楽と音楽家」 P40 シューマン著・吉田秀和 訳(岩波文庫)


後半1曲目はペルトのフラトレス。
レーピン&ルガンスキー公演@サントリーホール(2004年) のテレビ映像でも聴いたことがありますが、「現代音楽」という感じがして、私は少し苦手です。録画でもいつも飛ばしています(爆)
プログラムの解説によると、この曲のオリジナルは弦楽五重奏と木管五重奏のためのものだそうで、色々な形態に編曲されているのだそうです。
『空虚5度持続音の響きの上にロシア聖歌の成果のような和音のメロディが果てしなく反復されることが基本。』 と紹介されていましたが、実際、レーピンさんの和音の響きは聖歌のようでした。それだけは私にも何とか感じることが出来ました。

2曲目はベートーヴェンのヴァイオリンソナタ第7番。
これも大変素晴らしかったです! 御二人とも最高!

私はこの曲はいつもオーギュスタン・デュメイ&マリア・ジョアン・ピリスの演奏で聴いているのですが、このコンビの演奏とは全くの別物でした。個人的には(デュメイさんが大好きなので)デュメイさんの演奏の方が大人の魅力&色気を感じるのですが♪

レーピンさんの演奏は、ベートーヴェンそのものでした。デュメイさんももちろんベートーヴェンをイメージして弾かれているとは思うのですが(どちらの演奏も大好きです)、それぞれのベートーヴェンのイメージが違うと言いますか。レーピンさんはベートーヴェンの強引なまでの(?)力強さが出ていたと思います。

メロディが頭に溢れて来て、そのメロディを止めることが出来なくて、必死に音符を楽譜に書き留めている、またはピアノをガンガン弾いて筆記者にそれを書き留めさせているベートーヴェンのイメージが浮かんできました。(本当はどのように作曲されたのかは知りません。)

ラストに近づくにつれ、レーピンさんのヴァイオリンはさらに良く鳴りましたし、ゴランさんもますます気合が入って、大盛り上がりでフィニッシュ! 会場、大きな拍手。
ベートーヴェンのヴァイオリンソナタはクロイツェルやスプリングソナタだけではないのだと、改めて感じました。

アンコールは3曲弾いていただきましたが、レーピンさん「まだまだいけるよ!」 と言う位に、お元気そうな表情(お顔からも演奏からも疲れが全く見えません)。
色々な意味で、すごい人でした。

帰りは楽屋口まで行こう、と CDを購入し ペンも用意していたのですが、コンサート終了後は何だかこの満たされた気分のまま早く家に帰りたくなり、そのまま帰ってきてしまいました(笑)
また来年以降、レーピンさんの音楽を聴きに行く時の楽しみにとっておきます。
何度も書いてしまいますが、とても幸せな時間を過ごすことが出来ました♪
レーピンさん、ゴランさん、ありがとうございました。

嬉しいことに、本日はカメラが入っておりました! わーい!
5月17日 NHK ハイビジョン クラシック倶楽部 で放送だそうです。
ぜひぜひ、観て下さい。あのホールを包み込むような音の迫力と緊張感が、どれだけカメラで収められているのか楽しみです。個人的にはストラヴィンスキーとベートーヴェンが放送されると良いのですが(濃い組み合わせになりますけれど)♪

2010年3月30日 記

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