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ラン・ラン(朗朗) ピアノリサイタル
【 2009年1月24日(土) at サントリーホール 】

■ シューベルト:ピアノ・ソナタ第20番 イ長調 D959
■ バルトーク:ピアノ・ソナタ Sz.80
■ ドビュッシー:前奏曲集 第1巻から
          亜麻色の髪の乙女
          アナカプリの丘
          沈める寺
          ミンストレル
■ ドビュッシー:前奏曲集 第2巻から
          月の光がふりそそぐテラス
          ヒースの茂る荒地
          花火
■ ショパン:ポロネーズ第6番 変イ長調 op.53 《 英雄 》

アンコール
■ ショパン:別れの曲
■ 孫以強:春舞
本日の公演は元々25日(日)に行われるものだったのですが、演奏者が中国政府の要望により(だったと思います)急遽本日に変更になったものでした。本日は18:00からも中国の作品を中心としたプログラムのリサイタルもあります(こちらは私は行きませんが)。

ラン・ランという名前を初めて知ったのは数年前、ネットラジオの番組表からでした。急に色々な局で放送され始めまして、最近よく見かけるなぁ…というよりも変な名前だなぁ…という位にしか思っていませんでした。元々女性だと思っていましたし(何となく)、「朗朗」という中国の方とは想像もしていませんでした。録音して聴こうと思うほど関心はないので(すいません)、これまでもあまり演奏を聴いたことはないのですが、でも協奏曲などは有名指揮者・有名オーケストラとの共演が多いという印象があります。

そんな訳で、今回私にとっては 初ラン・ランです!
シューベルトのピアノ・ソナタ第20番という曲そのものが聴きたかった上、生演奏で聴きたいドビュッシーの沈める寺がプログラムに入っていたこと、さらに花火まで!
…完全に、演奏者というよりもプログラムで選んだコンサートでした。

でも行って良かったです。
ラン・ランのリサイタルに行くことが出来て良かった、と思いました。

サントリーホールはほぼ満席。老若男女平均した感じの客層だったと思います。
NHKの撮影も入っていました。クラシック倶楽部でしょうか?(楽しみです♪)

舞台に登場したラン・ラン。
まず最初にP席の方に向けて右手を上げて(手の甲を相手に見せる向きで)感謝の気持ちを。そして正面を向いて両手を上げて挨拶。その他 2階席の右に左にと、客席の隅々までに挨拶をされていました。礼儀正しい方なのだな、と思いました。舞台に登場されるたびに、そうされていました。

1曲目がいきなり、今回のお目当てだったシューベルトの第20番です!
なぜ私はこの曲が好きなのか。今まで何度も語ってきたことなのですが、昨年のラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポンでミシェル・ダルベルト先生が演奏した第20番(に限らず、19・21番も)が忘れられないからなのです。あれは本当に素晴らしかったです。今でもあの時の興奮、ワクワク感、感動を覚えています。あの感動をもう一度求めているわけではないのですが(先生の演奏は聴きたいですがv)、機会があればどの演奏家でも聴きに行きたいなぁと思っています。

ジャン、ジャン…  ジャン、ジャン… >一応、出だしの部分を表現しています

同じ曲なのに、ダルベルト先生とラン・ランはまるで別の曲を聴いているみたい〜〜〜
不思議な気持ちがしました。やっぱりあの時聴いたダルベルト先生のシューベルトが私は好きですが、ラン・ランの世界もいいと思いました。どっぷりと浸らせていただきました(笑)

シューベルトがこの曲をどのような心境でどのような意味をもって作曲したのかは分かりませんが、ダルベルト先生の出だしは何かを決意したような、強い意志が感じられる世界が伝わってきました。
ラン・ランの出だしは、幸せそのもの。顔の表情(ものすごい笑顔でした)からの先入観かもしれませんが、ホール全体が幸せに満ち溢れていました。そして、行進曲みたいな(例えが悪いですが)切れの良い演奏だったと思います。その切れの良さからは若さも感じられました。
私の持つシューベルトのイメージは、このような元気なものではないのですが… (ここまで元気が良いと、21番もどのような感じになるのか聴いてみたくなります♪)それはどうでもいいことで。

演奏が言葉に聴こえてくる演奏家に時々出会いますが、ラン・ランもその1人でした。
私の席からは手の動きは見えなかったのですが(お顔は良く見えました…汗)、この方はきっと曲の持つ1音1音の意味を理解した上で演奏されているのだなと感じました。根拠は無いのですが、何となく。こちらにメッセージが分かりやすく伝わってくる演奏でしたので、自分のイメージとは違った演奏でも楽しむことが出来ましたし、好きになりました。この方は、ずっと旋律を口ずさみながら演奏をされるタイプの方のようです。私も一緒になって心で歌ってしまいました(笑)

曲が始まると同時に、ラ・フォル・ジュルネの時のダルベルト先生の光景も頭の中で次々と浮かんできて…相田みつを美術館のピアノの木の香りがする中での演奏だったなぁ〜とか、客席にお客様が入場し始めているにもかかわらず一生懸命にピアノの調律のチェックをされていた時のお姿とか、帰る時に通路の端の椅子に座って満足そうに(でも目は一点を見つめて真剣そのもの)スタッフの方とお話しされている姿を目撃した時のこととか、第4楽章を演奏されていた時の先生の表情とか。
そして今目の前で演奏しているラン・ランの姿・演奏。
またシューベルトのこの曲そのものが持っているメロディーの素晴らしさ。
多くの情報・感情が自分に押し寄せてきたようで、目に涙が溜まってしまいました。
この時の気持ちを言葉で説明することは難しいのですが(色々な気持ちがあって)、でも幸せな気持ちに包まれていたことだけは確かです。
この曲を作ってくれてありがとう、とシューベルトにお礼を言いたくなってしまいました(笑)
いやー、本当に素晴らしくて、どの箇所をとっても楽しめる曲なのですよ♪

表情を怖い位に豊かにして演奏される方で(目力もすごいです)、これはテレビ放映をご覧になるとより分かるのではと思うのですが、幸せな第1楽章から変わって第2楽章になると、目標を見失って彷徨い歩いているような表現に代わりました(第1楽章とは雰囲気が全然違います)。
中盤の盛り上がりからが私は大好きなのですが、すごく格好良く決められていました。
「ジャン!」って何度か決める部分は、両手を180度横に広げていました(上手く説明できないのですが)。私の周りで眠っていた方々もこれにはビクッとなって起きていましたね(笑)
こういうような強めで連打する演奏がこの方は似合うのだな…と(これはバルトークのピアノソナタでさらに強く思いました)。かなり激し目なのですが、決して乱暴ではないのです。

ダルベルト先生の演奏では先生の優しさがたっぷりと伝わってきた、私が1番好きな第4楽章。
ラン・ランの世界は、やはり喜びや幸せで満ち溢れていたのですよね… 思わずこちらも笑顔になってしまいました。全部が見えなかったので不確かなのですが、ラン・ランは空いている手を結構自由に動かして演奏につなげている方だと思いました。例えば指揮をしてみたり、そういうことなのですが。この第4楽章の始まりは確か、右手の人差し指を前に突き出してから弾き始めたと記憶しています。だからだと思うのですが、私はラン・ランと客席の皆と一緒に未来に向って走って行くかのような気持ちになりました。
元々行進曲のようなリズムを取る方ですし(左足は常に拍子を取られていたように思います)、皆で遠足にでも行っているかのよう(笑) 思わず曲に合わせて体も動きそうになりますし、聴いていてすごく楽しかったです。

この曲は40分強ある大曲で、今回は50分位かけて弾いていました。
第2楽章後半くらいから私の周りの人たちはパンフレットをパラパラ見始めて(紙をめくる音って響くのですよね、涙)、退屈されていたようです。私もダルベルト先生の演奏を聴いていなかったら同じく飽きていたと思いますし(そもそも来ていなかったですね)気持ちは分かるのですが、だったらなおさらパンフレットの文字を追うのではなくて、今目の前にいる演奏家の姿を少しでも目に焼き付けておいた方がいいのではないかなぁなんて思っていました。
そのような中、第4楽章のクライマックスに向かっている時に私の隣の人がチラシを床に落としたのです。もうやめてよね〜!!!音が響いて、すごくびっくりしましたよ。演奏家に対して失礼です。
私の足元に落ちたチラシを拾おうとしたので、(今は止めて下さい!)という無言の意思を込めて私も足を動かしませんでした(笑)チラシなんて演奏中に見ないのですから、どうして床に置いておかないのでしょう。その後、後ろの席でも落としている方がいたようです。

せっかく20番の世界に浸っていたのに一気に現実に戻されてしまいました。その後は同じように曲に入って行くことは出来ませんでしたが、でもラストに近づくにつれてこの曲がもうすぐ終わってしまうことが残念で悲しくて、1秒でも長く弾き続けて欲しいなぁ…と思いました。

演奏後は大きな拍手が!
ラン・ランも正面の客席だけでなくP席、2階両サイドの方たちに何度も挨拶しています。
休憩中、私はこのような演奏を聴けたことが嬉しくて、感無量で、思わず友人にメールを打ってしまいました(笑) 本当、このまま帰っても良かった位です。先程の演奏を思い出すたびに、何度も感動に浸れてしまいました。

後半はそれ程こちらも気合が入っていなかったので(!)手短に。
バルトークのソナタだけは男性の譜めくりさんがいました。初めて聴いた曲ですが、最初から最後まで激しい曲で、ラン・ランも体全体を使って演奏されていました。こういう曲はこの方には似合うなぁと思いました。ちょっとピアニストの岡田将さんのイメージも湧いてきました(笑)きっと岡田さんも似合うと思います。
後半1曲目からブラボーの声があがりました! 納得です。すごかったです。

続いてのドビュッシーは、私的にはちょっと…でした。いえ、演奏が悪いとかそういうことでは無くて(もちろん素晴らしかったです)この方には合わない感じがしました。絵画的な表現のドビュッシーよりも、動画的な作品の方が映えるような気がしました。
大好きな「沈める寺」も、最初の出だしは海が見えてきて波も動き出してきて…までは頭に浮かんだのですが、海から大聖堂が現れませんでしたしオルガンの響きも聴こえませんでした。テンポも私のイメージとは違う感じで…好みの問題なのですが。
でも最後の「花火」は、目の前で花火の火花がバチバチ鳴っているかのような表現で楽しませていただきました。

ラストのショパンは、ピアノ曲を良く知らない私でも聴いたことのある有名な曲。会場も盛り上がり、最後は拍手喝さいでした!
外国のおば様がバラを1輪渡されて、その後に続いて華道家の仮屋崎省吾さんが可愛いピンクのバラ(だったと思います)の花束を♪ 仮屋崎さんはラン・ランの大ファンなのでしたよね。一ファンとして客席から渡されている姿に好感を覚えました。夜の部でも渡されていたようです(笑)
次に出てきたときに今度は小さな女の子が小さな可愛い花束をv ラン・ランって日本で人気があるのですね… 知りませんでした。

贈られた花束はピアノの上に置かれ、アンコールにショパンの別れの歌。とても良かったです!

その後何度か舞台上を行き来された後、「コンバンハ」と挨拶が。
英語だったので何言っているのか分からなかったのですが、顔の表情から察するに(どんな理解の仕方だ、汗) サントリーホールでのリサイタルはこれが初めてで、来て下さった皆様に感謝を申し上げます、というお礼のこと。来週中国は春節で、自分も中国に帰らなくてはいけなくて…ということで日程が日曜日から土曜日に変更したことへのお詫びのこと。そして「チャイニーズ・タンゴ」という言葉を何度か言われてもう1曲 孫以強「春舞」という曲を弾いて下さったので、きっと曲の説明をされていたのではないかと思います。もしかしたら春節の説明は無くて、ずっと春舞の説明だったのかもしれません(笑)

中国の曲だけを収めたアルバムも出されているようですが、曲を通じて日本でも中国のことを知る一つのきっかけになると言うことはいいことですね。上手く言えませんが、中国っぽい曲だなぁ…と感じました。古くさくないし、格好良い曲でした。

ラン・ランは「ハマる」という感じではないのですが、また来日される機会があったらぜひ聴きに行きたいと思う演奏家でした。良いコンサートに足を運ぶことが出来て幸せでした。

2009年1月25日 記

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