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ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン 4日目
熱狂の日 音楽祭2008 「シューベルトとウィーン」
2008年5月5日(月) at 東京国際フォーラム
【436】
ミシェル・ダルベルト(ピアノ)

■ シューベルト:ピアノ・ソナタ 第21番 変ロ長調 D960
■ シューベルト:3つのピアノ曲より 変ホ短調 D946-3
アンコール
■ シューベルト:ワルツ 《クッペルヴィザー・ワルツ》 Ann.I-14
【472】
ミシェル・ダルベルト(ピアノ)

■ シューベルト:3つのピアノ曲より 変ホ短調 D946-1(D946-2から変更)
■ シューベルト:ピアノ・ソナタ 第20番 イ長調 D959
アンコール
■ シューベルト:ワルツ 《クッペルヴィザー・ワルツ》 Ann.I-14
ダルベルト先生の公演は本日が最終日。
今年のラ・フォル・ジュルネで一番楽しみにしていたピアノソナタ第21番があります!
チョビ(我が家の犬)の散歩をいつもは17時に行くところを15時45分に早め(チョビは少しびっくりしていました、笑い)、開場1時間前に並びました。だって、悔いの無いようにダルベルト先生の手の動きをしっかりと目に焼き付けておきたかったから。

昨日の第19番の衝撃が抜けず、今日の昼間は何も手が付きませんでした。
あまり良すぎる演奏を聴いてしまうのも嫌なものだな…と贅沢にも思ってしまいました。気持ちがの整理が付かなくて、本当に何も出来ないのですよね。
>本当にすごい演奏だった… CDも聴けない状態です。興奮がぶり返してしまうので。
だからこそ、余計に早く会場に行って並んでいた方が私も楽でした。家にいても寝込んでいるだけだし(爆)

開場1時間前で私は4番目。
開場してから皆さんがお目当ての席に着いた時、不思議と私たちは希望の席がバラバラだったようで、私が一番座りたかった席が綺麗に空いていました。
ラッキー!!! これは、もう誰かからのプレゼントですね。とても嬉しかったです。

ダルベルト先生は恐らく昨日までの公演と同じ理由だと思うのですが、リハーサルが長引いているという理由で開場が15分ほど遅れました。
遅れても、全然構いません! だって、今日は第21番ですから。
たっぷりとイメージされて、思いっきり弾ききっていただきたい。

まず先生は、会場が暗くなる前に控室から出られると客席の後ろに座られました。
今日の先生はこれまでの紺のスーツではなく、濃いグレーのスーツでした。
スーパーピアノレッスンの時と同じような色です。どちらのスーツも素敵ですね。ちなみに靴下は濃いピンク系でした(なぜか今日は靴下ばかりが私の視界に入ってきて)。
客席から拍手が起こったのですが、「違うのですよ…」みたいな表情をされていました。恐らく、21番を始めるにあたってのイメージを作る、準備をされていたのではないかと思います。
先生は21番の始まりは、「この曲は始まるのではなく、何かが…すでに何かの世界が存在していて、そこからスッと自然に入っていく感じ」みたいなことをテレビで説明されていましたので(言葉は全然違いますけど)。

しばらくたってから先生が立ち上がり、改めて拍手が起こりました。舞台に上がられ、椅子に座ってからも、少しの間イメージ作りをされていました。今回の他の公演の曲の場合、先生はすぐに演奏を始められるのに、やはりこの曲は先生にとっては違う位置にあるのですね。

1音1音を ものすごく丁寧に、そして意味を持たせて、この曲を始められました。
これまでの演奏もそうですが、先生の音色には一つ一つ意味と理由があるように感じます。「勢いに任せて」とか、「適当」とかではなく、きちんと楽譜全部を読んで考えた上での一音です。
だから、安心して聴くことが出来ます。こちらも「1音たりとも聴き逃さないぞ!」という気になります。

ただ、本日の この21番は…
湿気のためか調律のせいなのか分りませんが、ピアノの音色そのものがこれまでと違っていて、先生の素敵な音色が出ていなかったように思います。先生の輝いているピアノの音色に、時々変な音がくっついてくるので気になりました。音は昨日の19番の方が良かったです。(でも、21番に大事なのは音ではなく精神性だと思いますので、問題なしです。)
すごく精神を集中して弾かれていることは私たちにもバシバシ伝わって、19番の時と同じく、客席は しーーーんと静まり返っています。パンフレットを落としたり、咳込んだり、いきびかいたりする人は一人もいません。これはソナタ公演、全てにおいて言えたことなのですが…
(特に、今日の2公演は子供はいませんでした。←と思っていたのですが、実際はいらしたそうです。でも、とても良い環境の中で演奏を聴くことが出来ました♪)

昨日の公演は、3つのピアノ曲を先に演奏して、ソナタを後に弾かれていました。なので、本日も3つのピアノ曲を先に弾かれるのかしら…と思っていましたが、プログラム通りソナタが先でした。この曲の場合、先に集中して弾いておきたいのでしょうか。それともバランスの問題かしら。(私にはよく分りません)

第1楽章が終わった時に、一生懸命に額の汗を拭かれていました。
ものすごく真剣な表情(いつもですけど、今日は特に)。
私の隣の女性は泣いていました。

すごい演奏って 言葉は不要だな、と思いました。
演奏聴いているだけで、その人がどういう人なのか、何を表現したいのか、が伝わってきます。
だから、いつものように騒がしい客席というのは存在しない。つい、真剣に聴き入ってしまうから。
第2楽章は先生の優しい気持ちがたくさん伝わってきて、私まで泣きそうになりました。
第3・4楽章は、もう気持ちで弾いている感じ。というか一緒に歌って体そのもので弾いていました。頭で考えていたら指がついて行きませんよね。ものすごい速さで弾ききられていました。
お顔は真っ赤! シューベルトは何でこんな弾く人泣かせの部分を書いたのかしら。でも素敵な部分でした。テレビで先生がよく指摘される「リズム」は、さすが、少しも乱れることはありませんでした。手とか疲れないのかな…なんて素人は思ってしまうのですが(苦笑い)
先生の指のあまりの速さに、こちらの気持もついて行くのが精一杯。

ダルベルト先生にとって、恐らく今後の人生もずっと共にして歩んでいく曲の一つであろう 特別なこの曲を、私は傍で聴けて大感激。この曲への思い入れをじっくりと見させていただいたような気がしました。「自分にとってこの曲は、今日の演奏が全てではないのですよ、これからも成長させていきますよ。」と先生は言っているような気がしました。

私は21番は苦痛の、悲しみの、精神的にとても重い曲だと思っていましたが、今日の演奏を聴いて、最後に行くにつれて どんどん浄化されていくような感じを受けました。19番→20番→21番で、段々浄化されていくのでしょうか。19番はすごく悲しみなのか怒りなのか、エネルギーを感じましたから。
21番はCDで聴くよりも、実際の演奏の方が穏やかな感じ。意外でした。
本当だったら、今日で先生の演奏が聴けるのは最後なので、もう悲しくて仕方が無くなるところなのですが、この演奏を聴いたら、自然と悲しくなくなりました(愛想を尽かした、とかそういうことではなくて)。すごく満ち足りた気分でした。

会場大拍手。先生も(これまでに比べて)満足そう。挨拶の仕方にも、少し観客へのサービス精神があったように感じました。観客には媚びない先生(だと思う)のはずなのに。
(本日のダルベルト先生は昨日までとは違って、何となく機嫌が良いような感じがしました。)

アンコールは「シューベルト、ワルツ」と言われ、ワルツを(今年は日本語が出てきませんでした)。
途中で右手で三拍子を振られてから「ポン」と鍵盤を押したりする部分もあり(格好良い!)、鍵盤をタッチするところから曲作りはすでに始まっているのだな、と改めて考えました。

続いて、相田みつを美術館で20番。
お約束のように開場時間は15分ほど延びました。ホールに入ってみると、ピアノの調整をまだされているダルベルト先生がいらっしゃいました。やはり先程の音が先生も気になられたのでしょうか。それともいつものことで、今回続きのスケジュールだったため、時間が足りなかったのでしょうか。
ここのスタンウェイは木で出来ているようで、木の香りがこちらにも漂ってきました。そもそもピアノの外枠は何で出来てるのかしら…。木だと思っていましたけど(それすらも分からない私)。でも、いつものピアノとは色以外に何かが違っていたことだけは確かです。

そして先生の演奏が始まったのですが、ピアノの音がものすごく良いです! ホールのせいなのかもしれませんが、先生の美しい音色が その空間中、埋め尽くされました。
最後にこんなに素敵な先生の音色がきけるなんて…と泣きそうになりました。
(余談ですが、先生は先ほどの公演の時とネクタイを換えていました。そういう心遣いが素敵ですね。きっとデュメイさんの場合同じものを着用されると思う…偏見かもしれませんが。)

音のせいなのでしょうか。それとも私が未熟者なのでしょうか。
個人的には、楽しみにしていた21番よりこの20番の方が色々伝わってくることがありました。21番よりもストレートに分りやすい曲なのかな。
最終楽章は、大きな1つの流れが押し寄せるように、切れることもなく、これでもか、これでもか、という位に音がどんどん先生の手から生まれてくる。

圧巻でした!!!

最後がこの曲で良かったです。先生の音色と気持ちををたくさん体で浴びることが出来ました。
アンコールは先程と同じワルツを。
曲の持つ雰囲気といい、長さといい、アンコールにはぴったりの曲ですね。

先生、4日間、本当に素敵な時間をありがとうございました(涙)
私にとって今年のラ・フォルジュルネはこれで終わったような気がしました。もう、これ以上何も吸収したくないような気分(笑い) 心の中にたくさんのことをいただきましたから。
この気持ちはすでに昨日の19番を聴いた時点で起こっていて、この後の庄司さん・小菅さんの公演は私の分まで楽しんでいただけると信頼できる友人に安心してお渡し済み。明日の公演も、ケフェレックさんのベートーヴェン ピアノソナタ第31番だけに絞り、他の公演は行くことをやめました。

昨年、ドヴォルザークのピアノ協奏曲を聴き、衝撃を受けたダルベルト先生の演奏。今年はここまでたっぷりと聴くことが出来て、本当に大満足! ラ・フォル・ジュルネは素敵な祭典ですね〜♪
ラ・フォル・ジュルネがなかったら、先生の演奏には出会えなかった。ただのテレビの前のスーパーピアノレッスンの先生で私の中では終わっていた(このレッスンはベロフ先生の方が好きでしたし)。

また今回、この最後の3曲のソナタを聴くことが出来て、シューベルトについて少し知りたくなりました。どんな背景を持ってこの曲があるのか。何をイメージされて先生はこのソナタを弾かれていたのか。「悲しみ」ってよく言われますが、シューベルトにとって何が悲しみなのか(さっぱり分からない)。
そして、私もピアノが弾けたらどんなに楽しいことか…と。弾けませんが、せめて楽譜が読めるようになったらもっと深く曲を楽しむことができるのではないかなぁと思いました。
楽譜って作曲家のメッセージが一杯詰まっている小説みたいなものだと素人には思います。何度も何度も音符や指示を読んでいくことで、作者の意図やその部分に含まれている意味を自分なりに考えていく。それを裏付けるために研究資料を読み、同時代の他の人の作品に触れてみる。
文学と同じですね!

ということで、私は帰りに地下の広場にシューベルトについて書かれた本を一冊買って帰りました。
思ったことはすぐに実行です(笑い)
地上に上がると、スタッフの方とお話しされているダルベルト先生のお姿が!!!
近寄ることは控えましたが、最後の最後のお姿を見ることが出来て、やはりこれも何かのプレゼントなのかな…と。秋のリサイタルも必ず聴きに行きますから〜! と、心の中で叫んでお別れしました。

本当に楽しかった4日間。
私のダルベルト先生祭りはこれで終了致しました。

おまけ:
相田みつを公演が終わると、スタッフに詰め寄る男性がいらっしゃいました。
「プログラムと曲が違うよ!」と。
曲をよく知らない私は全然気づかなかったのですが(当たり前)、プログラムには「3つのピアノ曲より 変ホ短調 D946-2」とあるのですが、実際先生が弾かれたのは「D946-1」だったのですって。
「昨日も違うの弾かれていたし…あの人、気分屋だからその時その時で変えちゃうんだよね。」と。
「これは苦情言っているんじゃないんです。スタッフの人がきちんと観客にプログラムの変更があったことをどこかに掲示して欲しいのです。だって、分からない人だっているでしょう?」
(…はい、私は分かりませんでした)

これは「もっとシューベルトについて、皆さん知りなさい」という、先生からのメッセージなのでしょうか(笑い) 自由奔放な先生の一面が見えた会話でした。

2008年5月5日 記

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