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ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン 2日目 (マスタークラス)
熱狂の日 音楽祭2008 「シューベルトとウィーン」
2008年5月3日(土) at 東京国際フォーラム
講師:ミシェル・ダルベルト

■ シューベルト:ピアノ・ソナタ イ短調 D784 より 第1,2楽章
現在も丁度「スーパー・ピアノレッスン」が再放送されている、ミシェル・ダルベルト先生のマスタークラス。先生の深くて的確なお言葉を、誰もが生で聴いてみたい! と思うはずです(私もです!)。
すごく混むに違いない…と予想しておりましたが、予想通りの大人気で、始まる50分程前に定員に達したようです。私は丁度この時間は自宅に帰ろうと思っていてコンサートは入れておりませんでしたので、並んで聴講することが出来ました。

ですが、ピアノを弾かない素人のミーハーな私にとっては、生のレッスンはどうしても指導を受ける側の身になって考えてしまい、注意を受けることが可哀そう…と思ってしまって(もちろんこの考え方は間違ったものではありますが)、終わった時はその内容に少しショックを受けました。

ダルベルト先生はDENONでシューベルトのソナタを次々に録音され、現在では14枚組みのソナタ全集を出されている程。シューベルトにはとても精通されている方なんだと思います。また、スーパーピアノレッスンのソナタ第21番のレッスンを見れば分りますが、最後のソナタである21番をとても愛されていて、若いころから21番を取り組む姿を推進しているように感じられます。
ダルベルト先生にシューベルトのソナタを指導していただくということは、それだけの覚悟というか土台というか練習量というか、必要だと思うのです。それでなくても、日本では注目を集めているピアニストですしね!

今回生徒に選ばれた方は、16歳と言われていた気がするのですが(違うかもしれません)、まだ学生の若い女の子。私などは若いのにここまで弾けるなんてすごいな…と思って最初の演奏を聴いていたのですが。シューベルト弾きからの目線ではそうではなかったようです。

先生と生徒さんとのこんなやり取りから、レッスンは始まりました。
(テレビでは英語を使われるダルベルト先生。本日はフランス語でした! >ちょっと感動。やはりフランス人なのね…と思いました。)

ダルベルト先生 : あなたはどうして、このD784(ソナタ第14番)を選んだのですか?
生徒 : ・・・好きだからです。

ダルベルト先生 : どこが好きな部分なのでしょうか?
生徒 : (答えられず)

ダルベルト先生 : 他にあなたはシューベルトのソナタで弾けるものはありますか?
生徒 : …ありません。

※ …って、ありませんって、馬鹿な…!!! と、ここで私はびっくりしてしまったのですが(汗)

ダルベルト先生 : あなたはいくつか弾けるソナタの中から、この曲を好きと言っている訳ではないのですね。普通、1番とか2番なら分かるのですが、この曲を選ぶのは少し珍しいなぁと思ったので質問させていただきました。

ダルベルト先生 : あなたはこの曲をどれくらい練習しましたか?
生徒 : 10日間位です。

※ 私、再びびっくり。10日って…演奏家にとって、または音楽を学んでいる学生にとって、練習量ってそんなに短いものなのでしょうか。

ダルベルト先生 : あなたはシューベルトのソナタを何曲聴いたことがありますか?
生徒 : (数えて)4曲位です。

※ 21曲あるソナタのうち、4曲だけの知識でダルベルト先生に教えていただくのはまずいのでは(汗)ピアノに馴染みがない私ですら、もう少し聴いていますが。

ダルベルト先生 : では、第21番は聴いたことがありますか?
生徒 : …ありません。

※ スーパーピアノレッスン見なくちゃ(涙) 素晴らしい内容で、私もついダルベルト先生のシューベルト全集買って21番聴き込んでしまった位なんですから。

――― と、最初の段階でものすごく寒い雰囲気が流れました。突っ込みどころ、満載。

これは生徒さんが悪いのではなくて、このマスタークラスを企画したスタッフに責任があると思うのです。どのような方法で生徒を選んだのでしょうか。貴重な時間を割いて教えて下さる先生にも、皆の前で緊張して教えてもらう生徒にも失礼だと思います。
急に頼まれてレッスンを受けることになったような雰囲気にしか思えませんでした。

生徒さんが注意を受けていたのはこのようなことだったと思います。
まずは、テンポ。最初の出だしの部分がテンポが乱れてしまう癖があったようなのですが、「テンポは一定で!」と、何度も言われていました。

次に和音。これについては、私は何の事だか分らないのですが、(楽譜を見て)「この部分の和音は、皆が全部聴きたがっているところなんだから。全部の和音を響かせて!」と言っていました。
この生徒の場合、右手に力が入ってしまうようなので、左手に意識して力を入れて! と。

基本的に楽譜に書いてある注意事項(ピアノとかフォルテとかアクセントとかそういうような指示)をきちんと守るように、と何ヵ所かの部分で何度も言われていました。
「ものすごく強い音や、ものすごく弱い音というのを出すのは簡単で、逆に単なる強い音、弱い音、というのをきちんと出すのは大変難しい。素晴らしい演奏家はそういう音がきちんと出せるものだ。」みたいなことも言われていました。

先生は、部屋のあちこちに動きまわって生徒さんの演奏を聴かれていました。近くに来られた方たち(聴講生)はとても緊張されていました。そして、「例えば楽譜に小さい音の指示があり、それを出したとして、それがホールAのような大ホールであった場合、客席にその音が果たして届くのでしょうか? ホールの大きさとか考えながら、自分で調節する必要がある。」と。「聴き手にイメージを伝えなくてはいけないのです。」と、聴き手がどう感じるのか、と、聴き手の目線に立った演奏も意識する旨を何度か話されていたような気がします。

先生は時間になると、第2楽章の最後まで演奏された生徒さんに「メルシー・ボク」(だったと思うのですが)と言うと、ご自分のジャンパーを持ってさっさと部屋を後にされました。会場の皆は呆気に取られてしまったというか… マスタークラスの終わり方ってそういうものなのでしょうか。
その後、生徒さんと係りの方と通訳されていた方たちが集まって深刻そうな顔で話をされていたので、やはりダルベルト先生は少しお怒り気味だったのかな…なんて思いました。
元々、客席に媚びるような方ではありませんし、今の時間は演奏家というよりも先生として接しられた訳ですし、これで普通なのかもしれませんが。クールなお方は、心の中が読めません(苦笑い)

何はともあれ、レッスンを受けた女の子に、お疲れ様でしたと言いたいです。

家に帰って、ダルベルト先生の全集からこの曲を出して聴いてみましたが、全然違いました(当たり前か)。音色の美しさから、音の強弱、曲が持つ世界観が全然・・・ 私としては、今回のこのレッスンはこの曲に触れるとても良いきっかけをいただいたような気がします。生徒さんもこの演奏を聴いていれば、少しは曲に対するイメージの作り方が違っていたかもしれません。
私も現在少しずつ聴いているところですが、先生のシューベルトソナタ全集はおすすめです♪

2008年5月3日 記

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