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エリアフ・インバル プリンシバル・コンダクター就任披露公演
第661回定期公演Bシリーズ
【 2008年4月30日(水) at サントリーホール 】
 指揮:エリアフ・インバル  ソロ・コンサートマスター:矢部達哉
 ソプラノ:澤畑恵美、大倉由紀枝、半田美和子  メゾソプラノ:竹本節子、手嶋眞佐子
 テノール:福井敬  バリトン:河野克典  バス:成田眞
 合唱:晋友会合唱団  児童合唱:NHK東京児童合唱団


■ マーラー:交響曲第8番 変ホ長調 「千人の交響曲」
 何が私をここまでこの公演に執着させたのでしょう。千人の交響曲という壮大な題名のせい? あの交響曲第5番を作ったマーラーの作品だから? エリアフ・インバルさんのプリンシバル・コンダクター就任披露公演だから?

・・・とにかく、私はこの公演をとても楽しみにしていました。
今日1日仕事が全く手につかず、例えば帰りがけに断ることのできないどうでもいいような用事を頼まれて、そのせいで公演に間に合わなかったらどうしよう…とか、そんなことばかり考えていました。
前日までの東京文化会館公演、ミューザ川崎公演に行かれた皆様の感想を読んでも、「すごい」「この気持ちを言葉で表すことは不可能」など、大絶賛の嵐。

あの出だしの、パイプオルガンが「バ――ーン」って鳴って、その後合唱で「Veni,」とホール一杯に歌声が広がった時、私はどう感じ、どう感動するのだろう…って、本当に必要のない想像ばかり。
1分でも早くサントリーホールに行きたくて仕方がありませんでした。
まるで何かに取りつかれたかのように。
会社にいても結局何も役に立たない状態でしたので、勤務時間が終わるとサッサと会社を後にしました。おかげで久しぶりにサントリーホールで食事を取ることも出来て、聴く体制はばっちりです!

東京都交響楽団さんは、9月にオーギュスタン・デュメイさんとベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲を演奏されます。デュメイさんのサントリー公演はどうしても良い席で聴きたい…! との強い気持ちから、私は今年の都響 Bシリーズの前期会員になりました(ははは)
なので、今日のお席もデュメイさん対策席。私にとっては理想の席で聴くことが出来ました。
もう、デュメイさんありがとう… という気持ちです。デュメイさんがこんなに素晴らしい演奏される人でなかったら、そして都響と公演しなかったら、私は今日の公演は聴くことが出来なかったはずだから。

今日は本当に素晴らしい公演でした。
音楽の終着地点があるとしたら、ここなのではないかと思う位に。
もう1回聴きたいなぁ! またどこかのオケがマラ8を演奏される時があったら、喜んで聴きに行こうと思いました。
また、この公演は6月29日(日)21時〜22時 NHK教育テレビ「オーケストラの森」で放送されるそうです(1時間ということは、ダイジェストなのですね…残念)。

「千人の交響曲」と言われる位ですので、本日の演奏者の数は半端ではありません。
色々なブログによると、600〜800人ではないかとのこと。目算で数えるのは不可能でした。
オケ自体が全体的に多いですし(ハープは4人、シンバルも3人いましたし、パイプオルガンも使っていたし)その後ろに児童合唱団の皆さん。
P席中央にはソプラノなどソリスト7人。それを囲むように前半分が女性、後ろ半分が男性の合唱団。座席が足りないので、通路の階段にも立っていましたし、後の空間にも2〜3列立っていました。もう、あのスペースが人でぎゅうぎゅうな状態。
2階席にもソプラノの半田さん、左右にトランペット・トロンボーンが(バンダと言うそうですが)8人と6人いました。

そこに現れたインバルさん。デュメイさんとのモーツァルトのvn協奏曲をライヴ録音で聴いたことがありますので、私も名前だけは知っています。鼻歌がすごい方なのですよね〜(笑い)
思わず「メタボ…」と思ってしまうような体系の方でした。良く言えば安定感があるというか。

指揮台に上がるや否や、すぐに指揮棒を振り降ろされました。始めるのが早い!

大変楽しみにしていた「ベ〜ニ♪」の出だしですが、この出だしは私としては特にすごいとかそういったものは無かったです。普通に始まり、普通にそれを受け止めることが出来ました。
合唱団の皆様は暗譜です。児童合唱団も楽譜は持っていません。それだけでも頭が下がります。

合唱団の皆様は、歌う時は起立する、歌わない時は椅子に座る、という感じなのですが、児童合唱団は前半は座っていました。
途中から立ち上がって児童合唱団も合唱に混ざった時、もうホール一杯に歌声が広がって、何ともいえない気持ちになりました。

ベートーヴェンの第九の合唱でも、人の歌声に感動する私ですが、それなど比べ物にならない位の大きな世界がそこにはありました。
何歌っているか分りませんし、もちろん意味も把握していません。でも大人数でのあの声の迫力は、本当にすごい。無条件で感動してしまいます。主役の都響の存在を思い切り忘れていました…

何書いてもすごいすごいとなってしまうので詳しくは省略しますが、特に素晴らしいと感じたのが、第一部と第二部の最後でそれぞれ大音量で盛り上がる部分。
ビックバーンというのでしょうか。何かが爆発し、また無から何かが始まる。物事の始まりにはとても大きなエネルギーが必要で、そのエネルギーをこの演奏が表現しているのだと私は思いました。
この部分では、シンバル3つがジャン・ジャン・ジャンと鳴らしていって、2階席の後ろからはトランペットが大音量で鳴らしてくる(2階席から演奏されているので、1階席で聴いている私たちには天上からの音楽に聴こえてくるのです!)。他の楽器ももちろん最大の音量で演奏しているので、360度全てから自分に向かって音が迫ってくる感じがしました。音に立体感があるのです。
波…というような生易しいものではなくて、嵐とか津波とか、そういった激しい音の荒波に客席の私たちが飲み込まれてしまったかのような感じ。その音に飲み込まれてしまったかのような混沌とした世界観を、マーラーは伝えたかったのかな、なんて勝手に想像しました。
以前聴きに行きましたピアニストの方の公演の時。その方はとても力強くガンガンに大音量で演奏されたのですが、その演奏には私は恐怖心というか、上から押さえつけられるような苦痛なものでしかありませんでした。ですが、このマラ8の大音量は全然違う。精神的に苦しくないし、むしろ音楽と同化してしまうかのようで非常に心地良いものでした。楽器と音色と人の歌声の渦の中で流れに身を任せてしまっているかのよう。音楽が、体の一部となっていました。

各楽器がどこを演奏しているかなんて全く分かりません(笑い)上手いか下手かなんて、さらに分かりません。この状況では、上手いも下手も関係ない気がしました。必要なのは雰囲気。世界観。
この訳の分からず、でも何だかすごいな…という世界の上に、さらに合唱が加わるのです。
本当にすごいですよ… 目の前で何が起きているのか分かりませんから。
CDでは結構長いな…なんて思って聴いていましたが(フルで聴き通すのは不可能に近いかも)、生演奏だとあっという間でした。

生演奏を聴いて鳥肌が立つことは、これまでに何度か経験た事があります。ですが、本日は頭の先から足の裏まで、体全体で鳥肌が立ってしまいました。こんなことって、今までにありません。

第1部が終わると(もちろん拍手はしません)、インバルさんが一度舞台からはけました。数分後、また舞台に現れたインバルさん。この時も拍手は無しです。私はこういう状況の時どうすればいいのか分りませんので、周りに合わせていました。

第2部はゲーテのファウストからの最終場面ということですが、私はファウストは読んでいないのであまり内容的には意味が分かりませんでした(苦笑い)
でも最初のオケの森のような雰囲気とか、テノールの福井さんとか(もう、ありったけの声を振り絞って出されている姿に胸がギュッとなってしまいました)、2階席から歌われた半田さんとか(天から降り注がれた歌声のようでした。素晴らしい!)、それぞれが良くて、途中で演奏のボリュームが小さくなってホールが静寂に支配されるのですが、その時なんだか自分が浄化されたような気がしました。
第2部は聴き惚れてしまって、自分の存在を忘れていたほどです。
そして最後、また盛り上がって終わるのですが、もう体はなぜか熱くなっていますし、この興奮した気持をどうにかするには拍手しか無くて、とにかく拍手しまくりました。

他のコンサートだと、「もういい加減に拍手は止めたい…」と思うことがありますが、今日は児童合唱団の皆さんが舞台から立ち去るまで拍手しました。全然手が疲れませんでした。
その間、インバルさんは2回舞台に挨拶をしに戻ってきて下さり、さらに大きな拍手が!

帰りは入口で就任披露公演の記念品(カードとボールペン)が配られていました。
インバルさん。あの大人数をテキパキとまとめられて、素晴らしい指揮でした。またインバルさんと都響の組み合わせでマーラーが聴きたいなぁと思いながら、帰りました。
何度も言いますが、大満足! マーラーはすごい人ですね!!!

2008年4月30日 記

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