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モーツァルト・ピアノソナタ全曲演奏会 第8夜
ジャン=フィリップ・コラール
【 2007年1月20日(金) in 四谷区民ホール 】

■ モーツァルト : ピアノソナタ第11番 イ長調 K.331 「トルコ行進曲付き」
■ シューマン : アラベスク op.18
■ ラヴェル : 亡き王女のためのパヴァーヌ
■ ラヴェル : 「鏡」から 悲しい鳥たち、道化師の朝の歌
■ ショパン : バラード 第3番 変イ長調 op.47
■ ショパン : 夜想曲 ハ短調 op.48-1
■ ショパン : スケルツォ 第3番 嬰ハ短調 op.39
■ ショパン : 夜想曲 嬰ハ短調 op.27-1
■ ショパン : バラード 第4番 ヘ短調 op.52

アンコール
■ ショパン : ワルツ 12番
■ プーランク : パストラル
いつものように(汗?)ギリギリ会場着になる時間に会社を出発し、駆け足で四谷区民ホールへ向かいました。新宿三丁目駅で丸の内線に乗り換えたのですが、これがまた連絡通路が長い、長い…
ホールに着いた時には汗びっしょり、1日の疲れもピークに達していました。

私、完全に寝るな…

そう、思いました。今までの経験上、この疲れ具合では居眠り決定です(爆)
>12月のアナスタシアさんのクリスマスコンサート以上に疲れていましたので。(注:このコンサートでも寝てしまいました)
さらに今回は私にとってまだ早すぎるのでは…と躊躇してしまう、面白さが分かりかねている未知の楽器 『ピアノ』 です。プログラムにズラッと並んだ曲目を眺めているだけで頭が痛くなりそうでした。

さて 本日のコンサート。
本当はイングリット・ヘブラーさんによるものだったのですが ヘブラーさんが不整脈によるドクターストップがかかってしまったために来日出来なくなり、この時期 N響とのコンサートのために来日されるコラールさんに思い切ってお願いしたところ、その事情を知って快諾して下さり、実現したのだそうです!(元々、コラールさんの今回の来日でリサイタルは予定されていませんでした)
本来予定にあったトルコ行進曲だけを活かして、あとはコラールさんお得意の(?)プログラムにされたそうです(と、四谷区民ホールのホームページに書いてありました)。
パンフレットによるとコラールさんは日本でのリサイタルは久しぶりだとのこと。先程 居眠り決定となった私でも楽しめるのかしら…という、不安と期待とが入り混じった気持ちでコラールさんの登場を待ちました。

本日の客層は、女子高生・30代前後の女性・おじさま・おばさま、というような構成のようでした。客席はほぼ満席だったのでは、と思います。

―― 前ボタンを外した黒のスーツで舞台に登場されたコラールさん。
190センチ程あるのかな?と思いましたが、正確ではありません。背の高い方のように感じました。
私は大好きな(!)オーギュスタン・デュメイさんとの若かりし演奏での映像でしかお姿を拝見したことがなかったのですが、素敵に年をとられているように感じました。でも、「2枚目」と呼ぶには何か1つ足りない気がしたのは何故なのでしょう。素敵なんだけど、何かが違ったのですよね。「隙が無い位の美形」とか「ダンディ」というのではなくて、あちこちに隙がありそうな感じです(爆)

…それは置いておきまして。昨年デュメイさんを初めて生で拝見した時と同じような気持ちになりました。感無量といいますか。すごく嬉しかったです。今まで音で聴いていた人が、目の前にいる! って。
デュメイさんの演奏を聴いた回数だけ、伴奏されているコラールさんのピアノの音色も今まで私は聴いてきたわけで。コラールさんの力強いピアノの音色は私、とても好きです。なので 生演奏を聴いてみたかったのです。

1曲目のモーツァルトのピアノソナタが始まりました。
始まったとたん、会場から「スー、スー」といびきのような鼻から抜けたような声が聴こえ始めました。

も、もう、誰か寝てしまったの?! そんなバカな!

えーーーーっという気持ちでした。
が、これはコラールさんの鼻歌だという事がすぐに判明(爆)
コラールさんは目を瞑って鼻歌を歌いながら、それに合わせて演奏される方でした。私はびっくりしてしまいました。最初からアンコールのプーランクまで、ずっと歌っていました。
「弾き語り」と言ってもいいかも…

力を入れる部分は「フン!」と唸りますし、クライマックスの盛り上がる部分はフランス語か何語かは分かりませんでしたが、まるで歌詞があるかのように歌い上げられてそれに合わせて弾かれていました。小山実稚恵さんがラスマニノフ第2番を弾かれたときも何か叫んでいるように感じた部分があったのですが、皆さんそういう時に一体何を言われているのかが気になるところです。
指揮者の広上淳一さんや小林研一郎さんの唸り声も聴いていて結構気になりますが、それどころではありませんでした。すごかったです。
そして、ぜひデュメイさんとのデュオを聴きたい!と思いました(笑い)
デュメイさんの唸り声とコラールさんの鼻歌とで、ものすごいコンサートになるのではと思います (もちろん、演奏はそれ以上にすごいと思います)。想像しただけで濃そうな感じがしますね。

今回の私の席は、1列目のど真ん中。>きゃ〜っ!!!
本当はもっと後ろの席が良かったのですが、申し込んだ時には残っていなかったのです(涙)1番後ろか1番前か隅っこか…と言われて、1番前を選んでしまいました。
ピアノの音が必要以上に耳に届いてしまうのでは…と心配していたのですが、そのような事は無く、しっかりと頭の先から足の先までコラールさんの姿を目に焼き付けてきました♪
追記:
色々なブログ(特にピアノを弾かれている方が書かれたもの)を読んでいますと、今回コラールさんが使用されたピアノ「ベーゼンドルファ(Boesendorfer)」が合っていなかった(音の響きとか表現力の面で)…みたいな感想にいくつか出会いました。素人の私には十分コラールさんらしさが伝わってきたと思うのですが! 確かに、各演奏後に意味ありげに鍵盤を何度も見つめていらしたのが印象的ではありましたけれども。ピアノの場合、所有の楽器を使うわけではありませんので大変ですね。


足が長い人だなぁ〜というのと、ペダルをガンガン踏んでいたのが印象的でした。私の位置からは指先だけが見えず、魅力的な長い指の動きは残念ながら見る事は出来ませんでした。顔の表情については、私の言葉では到底表現できるものではありません(爆)とても多彩だった…とでも言うのでしょうか。

モーツァルトのソナタに話は戻りますが、この曲は色々な所で部分部分を耳にしたことがあります。今回私が予習に使ったのはマリア・ジョアン・ピリスさんの演奏。私もピリスさんの演奏のようなゆったりとした、でも精神的には力強い1本の線が通っているような感じがこのソナタだと思っていました。

コラールさんの演奏は違います!
「出だしからトルコ行進曲ですか?」って言いたくなるような、力強いリズム感に溢れたソナタでした。
モーツァルトの柔らかい感じなどは無く、強弱がはっきりとしたメリハリのある少し速めの「コラールさんの」ソナタでした。いつもは聴いていて第3楽章へ行く前に飽きていたのですが(爆)、今日はあっという間に第3楽章へ。こんなに短い曲だったっけ?!と思う位、コラールさんの世界に入り込んでしまいました。先程までの眠気も吹き飛び、最後まで興奮しっぱなしでした。

デュメイさんの時にも感じたのですが、この方たち程になると 自分の音楽の世界をどれだけ表現できるかが問題なのであって、またこちらもそれを楽しませていただくのであって、多少音を外したからといってそれは何の意味も持たないのだなぁ…と、そんな気がしました。どれだけ音を正確に出すかよりも、その時の流れ、勢いを大事にされているのだなと思いました。というのも、デュメイさんもコラールさんも音を外したり間違えたりされていたような気がするからです。もちろん、好みもあるとは思いますが!
「その時の演奏」というものが聴けたような感じがして、とても良かったです。

ピアノの響きも私に合っていました。体にすーーーっと入っていくような、正にデュメイさんのヴァイオリンを聴いた時のようなあの感覚! やっぱり私はデュメイ&コラールのコンビが好きなんだなぁ…と何度も思いました。聴いていて、気持ちがいいのですよね。このままずっと聴いていたかったです。

今回全体的に感じたのは、ピアノのコンサートってヴァイオリンよりも聴いている方の集中力を要するものなのだなぁということです。これは、あまりピアノを聴きなれていないからこそ思ったことなのかもしれませんが。

まず、コンサートホールの中心人物はピアニスト1人な訳で。コラールさんが全てを行い、時間も空間も静寂も、全てを操っているのですよね。そのコラールさんの集中具合が半端では無いので(ものすごく自分とピアノだけの世界に入り込んでしまったかのようでした)、こちらも同じ位集中してしまいました。皆がコラールさんの精神に同化しているので(私の想像では)、楽章間の拍手なんて存在しません。コラールさんの演奏がまだ終わっていないという事がはっきりと分かるからです。最後の1音を活かしたい…とコラールさんが考えていれば、こちらも最後の余韻が消えるまで一緒に聴き入ります。何か、すごい空間だなぁと感じました。そこにあるのはピアノ1台だけなのに!

演奏中のコラールさんは 先程述べましたように鼻歌を歌いながら弾かれていたのですが、まるで純粋無垢な子供のようでした。ピアノを相手に物語の世界へ入り込んでしまったかのようです。そして、違う目線で見れば変なフランス人が目の前にいるなぁ…という感じでもありました(失礼な感想かもしれませんが)。
恐らくコラールさんにはその曲の世界が目の前にあって、その世界のイメージをピアノで表現されていたのだと思います。それが弾いている時の姿勢とか顔の表情で何となく分かるのですが。
ただ「ここはそんなに楽しく弾くところなの?!」と思うような部分で、フフフ・・・と目を瞑って笑いながら弾かれたりされていたので、その部分がよく分かりませんでした。>ある意味、無気味でした(爆)
そういう私個人のイメージとの食い違いはありました。
でも、これはモーツァルトでもシューマンでもラヴェルでもショパンでもなく、コラールさんの世界なんだという事がはっきりと伝わってきましたので、自然と目の前の演奏を受け入れ 楽しむことが出来たのだと思います。1曲ごとの聴き終わった後の満足感は格別でした♪

演奏が終わると、片手をポケットに手を入れながら気だるい感じでフラッと舞台の前に立たれ お辞儀されるコラールさんは素敵でした! 演奏中とのギャップがすごいです。「オレ流」って感じがしました。

個人的に特に好きだったのは道化師の朝の歌(最近ラヴェルが好きな私です)、あと後半のショパン、アンコールのプーランクのパストラル(すごく楽しい曲ですね)です。
ショパンは盛り上がりがすごい部分が多いので、聴いているこちらも盛り上がってしまいます。
スケルツォなんて、最後にコラールさんが「イェーイ!」って言いながら弾き終えられたような気がします。私の記憶が確かならば。>それだけ熱かったと言いますか。

ショパンのバラード第4番は数年前にダニエル・ベン・ピエナールさんの演奏を聴いたことがありますが、この時も熱いダニエルさんの演奏に驚いた記憶があります。本日のコラールさんの演奏を見て・聴いてから考えますと、ダニエルさんは(あれでも)まだシャイな方だったのだなぁと思います。コラールさんは 「自分、全開。」 って感じでした(爆、今までCDを聴いて想像していた私のコラール像が崩れ去った気がします) 会場皆で圧倒されてしまいました。

ピアノについてはいつも以上に今の気持ちを言葉に表すことが難しいのですが、でもピアノのコンサートがこのようなものなのだとしたら、私でも楽しむことが出来るかもしれない、という気持ちになりました。本日はコラールさんの世界に魅せられっぱなしの、とても楽しい一時でした。

演奏後にはアルバムを購入した人にサイン会が予定されていました。ですので、休憩中には小さなCD売場にはすごい人だかり! 早くお目当てのアルバムを手にしないと売切れてしまいそうな勢いでした。そして店員さんが1人しかいなかったので、会計に時間がかかりました。
なかなかアルバムに近づくことも出来なかったので、お隣にいた御婦人とコラールさんの魅力について語りながら待たせていただきました。この方は若い頃のコラールさんの姿しか見たことが無かったそうなので、「こんなにお年をとられていてびっくりしたわ!」と言われていました。でも素敵な方なのでぜひサインをいただきたい、と(笑い)
「いただくなら、コラールさんの写真があるジャケットがいいですよね!」と収録曲目関係無しにジャケットメインで選ぶのに盛り上がりました。
売場には私お薦めの、EMIのデュメイさんとのフランクのソナタのアルバムもあったのですが、あまり売れてませんでした。やはり、コラールさんの写真がジャケットになっているアルバムやソロアルバムが売れていました。本当だったら、このフランクのソナタを皆様に売り込みたいところだったのですが!>このアルバム大好きなのです。

上の小さいのがボクのだからね! 私は昨年デュメイさんにサインをいただいたラヴェルのCDも持って行きましたので(もしかしたら…と思って!)、こちらにもしていただきました。デュメイさんの大きなサインを見てコラールさんは笑っていました。>「体も大きいけどサインも大きいな」と思われたのでは?! それとも「書く場所残っていないのに俺に渡すなよ、苦笑い」かしら(汗)
「この上の小さいのがボクのだからね!」と、最後にサインを指してジェスチャーをされました。
久しぶりにサインを頂く時に緊張してしまい、私 間違えて「スパシーバ」と言ってしまいました(爆)

あんなに激しい演奏をずっとされていたのに、1人1人の話にきちんと耳を傾けてくれ(本日すごい人が並びました)、最後まで笑顔で「サンキュー」「メルシー」とサービス精神旺盛な方でした。
でも、本当はすごくお疲れだったのだと思います。私たちも そのことを忘れず、感謝をしなくてはいけないよなぁ…と改めて感じました。

元々、N響さんとのラヴェルの左手のためのピアノ協奏曲のチケットが取れなくて(涙)こちらのリサイタルへ思い切って行くことにしたのですが、本日この演奏を聴くことが出来て良かったと思います。
こうなってくると、機会があればミシェル・ベロフ先生、ニコライ・ルガンスキーさんのリサイタルもぜひ聴きたくなってきます。今後の楽しみがまた増えました♪

2007年1月20日 記

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