戻る

関西フィルハーモニー管弦楽団 いずみホールシリーズ Vol.7
〜モーツァルトの時代への旅 名手デュメイが紡ぐ至福のアンサンブル〜
指揮&ヴァイオリン独奏:オーギュスタン・デュメイ
【 2006年10月12日(木) in いずみホール 】

オール・モーツァルト・プログラム
■ ヴァイオリンとオーケストラのためのアダージョ ホ長調 K.261
■ ヴァイオリンとオーケストラのためのロンド ハ長調 K.373
■ ヴァイオリン協奏曲第5番 イ長調 K.219「トルコ風」

―― Intermission ――

■ 交響曲第29番 イ長調 K.201
1年越しで楽しみにしていたデュメイさんのコンサート。今回が最終公演となってしまいました(涙)
デュメイさんは日本へ来られる機会が比較的多いアーティストだとは聞いていましたが、でもこうやって日本へ来て、色々な音楽の楽しみ方や表現方法を教えてくれた事は、そしてその機会に自分は出会うことが出来たということは、本当に有り難く幸せなことなんだなぁと、大阪へ向う新幹線の中で夕日を眺めながら考えていました。>平日にも関わらず、大阪まで聴きに行こうとする自分って変なのかなとも(笑い)

本日の会場であるいずみホール。舞台の上辺りに飾られたシャンデリアや2階席の雰囲気、そしてパイプオルガンの存在…とても素敵なホールでした。このホールこそ、デュメイさんがモーツァルトを奏でる最後の場には相応しいのかも、と勝手に思ったりしました(爆) 音の響きも良さそうです!
821席のこのホール。本日は8〜9割の入り具合だったのではないかと思います(詳しく眺めなかったので正確ではありませんが、2階席サイドの空きは結構目立っていました)。
平日ということもあり、2曲目、3曲目で遅刻してこられた方も多々いたのですが…

私がデュメイさんの演奏を「生で聴きたい!」と強く思っていた曲は(もちろん何でも聴きたいですが)『ラヴェル:ツィガーヌ』『モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲第3番』、そして今回のプログラムにも含まれております『モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲第5番』でした。
出来たら弾き振りで…とも思っていましたので、今回のコンサートは嬉しかったです!
何て素敵な企画なんだと。モーツァルトvn協奏曲3番5番については、若い頃の映像で何度も繰り返し観ていますので(!)、現在のデュメイさんのトルコ風、一体どのような演奏をされるのか大変楽しみにしていました。

ポン、ポン、と弦を鳴らしながらデュメイさんが登場! そして、軽くチューニング。
>この姿、初めてデュメイさんを見た逗子でのコンサートを思い出しました。

1曲目、アダージョ K.261です。最初はオケに指揮をして、そしてデュメイさんのヴァイオリンが入ります。この姿が、私は見たかったのです! 弾き振りです!
これは今年のフォル・ジュルネで樫本大進さんの演奏で初めて聴き、素敵だなぁと思った曲。
デュメイさんのアダージョ。…いいですねぇ!!!
やはり、デュメイさんの音色は素敵。今回何度も書きましたが、デュメイさんの音色は太いです。観客の耳にがっしりと入ってくる音色です。その上、美しいのです。
樫本さんのアダージョは、女性の心の奥にじわ〜っと染み込んでくる様な綺麗な細い演奏でしたが、デュメイさんは安心出来る音色。そして、そこにはきちんとした言葉では現わすことが出来ないのですが、強い意志のようなものを感じるのです。それを私たち観客は、何となく受け止めることが出来るのです。「美しい〜!!!」だけでは終わらない世界がそこにはありました。

続くロンド K.373。
関西フィルさんの構成は全部で32人位。モーツァルトの演奏を聴くたびに、今日のオケは少人数なんだなぁと驚くのですが(学習能力が無い私)、そういう時代の曲なのですよね(笑い)

デュメイさんのヴァイオリン。先程のアダージョとは違う音色が流れ出てきたのには驚きました。雰囲気をがらっと変えて弾いているのです。アダージョは少し柔らかいやさしい感じの音色。今度のロンドは尖った感じの高貴な音色。ヴァイオリンって、出てくる音色を変えることも出来るのですね!
いずみホールの雰囲気も手伝って、宮廷にいるような気分で聴かせていただきました。とても華やかな、楽しい気分になりました。

私が今回いいなぁと思ったのは、デュメイさんがコンマスさんやチェロの方にアイコンタクトをすると、それぞれの方が笑顔で頷きながらデュメイさんの目線に答えていたことです。音楽って通じ合うんだぁ…と、その雰囲気が好きでした。

それが特に現われていたのがこの K.373だったと私は思います。
デュメイさんがコンマスさんに向って「こういう音楽っていいよねー♪」みたいな感じで笑顔で弾くと、コンマスさんも「そうだね、いいねー♪」と頷いて弾き返します。
今度はチェロの方に「今、とても楽しいよねー♪」と弾くと、やはり「そうですね、楽しいですね♪」と頷いて弾き返す(…もちろん、私の想像ですが、そんな光景です)。
最後はもちろん、客席に向って「この気持ちが伝わっている?楽しんでる?」と曲に乗って目線を投げかけてくるので、思わず「楽しんでまーす!」と頷いてしまいました(爆、決してデュメイさんはこちらを観て弾いていた訳ではありません)
首を振りながら曲を聴くのはあまり好きではないのですが(周りの迷惑にもなりそうですし)、でもデュメイさんの演奏を聴くと、自然とリズムを刻んでしまう自分の姿がありました…お恥ずかしい。

そして、私にとっての本日のメイン、vn協奏曲第5番です! トルコ風です! 日本で演奏されるデュメイさんの最後の姿を、たっぷりとこの目に焼き付けておこうと思いながら聴きました。

今年は他の方の演奏で、トルコ風は2回聴いています。でも「何か違うんだよな…」といつも思っていました。いつも聴いているデュメイさんのアルバムとは違う、と(当たり前ですよね)。間の取り方とか、演奏の速さ遅さとかを含めて。

デュメイさんの指揮で小刻み良く始まったトルコ風、続く部分では気持ちが良い位に音を流すような指示を出されています。そして、力強いリズムある音楽。デュメイさんの音色――

これだ! 私のトルコ風は!!!

はい、やはり「これ」でした。私の求めていたトルコ風はこれだったのです(笑い)
多少は違うとはいえ、アルバムで弾かれているスタイルの基本部分は変っていないように感じました。私にとっては大変に聴きやすく、懐かしい感じがしました。
一緒に心の中で歌いながら(!)、楽しく聴かせていただきました♪ 感無量です。
今回の全公演を通じて思いましたが、デュメイさんの左手の動き。すごく正確なのですよね(素人目線では正確に見えます)。力強くカチ、カチ、と押えていくので、先に弦を押えた時の音が聴こえてくる時もありました。このトルコ風でも、その左手の素晴らしい動きに魅せられました。
トリルも、小鳥が歌うようなトリルですし!>速くて美しい!

迷いが無い音色で次々と弾かれる独奏部分も聴き応えありました。
急にシュン、と音を小さくしたかと思うと次の瞬間には伸びやかな、ゆったりとした音色が溢れ出ていたり… デュメイさんの手にかかると、音楽が変幻自在になるのですよね。
※この『変幻自在』という言葉。あるブログでデュメイさんの演奏をこう表現されていたのがすごく気に入ってしまいました。
また、そういったテクニック部分だけでなく、デュメイさんの音色に私は「大自然の恵み」とか「生命の源」のようなものを感じたのです(これは本人が意図するものではないと思うのですが。それにトルコ風の音楽とも全然関係ないし!) 。体が帰るべき所へ帰ってきたんだな…という感じです。
それは、真っ青な海だったり、晴れ渡った空だったり、澄み切った空気だったり、深緑の木々だったり、暖かな太陽の光だったり。聴いていて、とても気持ちが良かったです。

第3楽章に入った時点で、私はデュメイさんに「ありがとう」の言葉しか浮かびませんでした(爆) 本当に、素晴らしい演奏と音色、そして精神を聴かせていただきました。
聴けて良かったです!!!

…とここまで書くと、今回のコンサート。大変に素晴らしかったと思われることでしょう。
でもここまでは、デュメイさんに焦点を当てた感想です。
デュメイさんの弾き振りによるモーツァルトプログラム。
こんな素敵なシュチュエーションでしたら、デュメイさんの魅力が満載の『オーギュスタン・デュメイ度・200%』 位のファンにはたまらないコンサートになると思いますよね!

ですが私はデュメイさんの魅力を、想像の80%位しか感じる事は出来ませんでした。
デュメイさんだけを観て・聴いている分には、それはもう至福の極みとしか言いようが無く、大満足だったりするわけですが(←バカ)、全体としてどうなのかと言った時に、残念ながら物足りなかったのです。もしかしたら、最後のデュメイさんということで自分の感情移入を抑えていたせいもあるかもしれません。あまりに感動してしまうと、別れが淋しくなりますし!(←もっと大バカ、汗)

デュメイさんの演奏と関西フィルさんの演奏との差が大きすぎました。デュメイさんは1人でオケを引っ張っていかれる方ではなく、「皆で」演奏を作り上げているタイプの方だと思いましたので、その分デュメイさんの魅力がオケに奪われてしまったのかなぁと。>勝手に想像する訳です。

黒色の絵の具にいくら白色を混ぜても、白色になることは無い…そんなイメージでしょうか。逆に、灰色としての魅力がある、ということも言いたいのですが。関西フィルさんの前向きな姿勢はとても感銘を受けましたし。でも、真っ白を期待する者としては…ということです。

そしてオケのヴァイオリンの音色そのものが(音程とか関係なく)、デュメイさんの美音とは違う世界の音色でした。基本のそこから私としては違うかなぁと。他のオケのヴァイオリンとは違う音色でした(弾き方なのでしょうか)。なので、上手くデュメイさんの音と重ねて聴くことが出来ませんでした。

トルコ風に関しては関西フィルさんが…というよりも、今年聴いたザルツブルグ・モーツァルテウム管弦楽団さんの影響もあると思います。当時は「ソリストを活かさないで自分たちばかり演奏しちゃって!」と私は怒り気味でしたが、でも頭の中では今でも忘れられない音色なのです。ザルツブルグの空気をそのまま持って来ました!というようなキラキラと輝いていた音色。それをついつい、トルコ風には求めてしまうのです(笑い)

デュメイさんの音色って、あれ位の威厳のある高貴な(?)音色と対等に、もしくはそれ以上に渡り合えるのですよね。そして、活きるはずです。そういう状況であれば、もっともっとモーツァルトの本来の世界が表現されるのでは… と、勝手な想像を膨らませてしまったのです。

関西フィルさんの演奏は、どうしても日本人の演奏。デュメイさんの指示もあったのだと思うのですが、音の強弱、間の取り方などは、これまで他では聴いた事の無いデュメイさんらしさのある演奏になっていました。それに向って一生懸命に弾かれている姿も感じました(なので好感が持てたのだと思います)。でもオケの音に『輝き』が見えないのです。ザルツブルグの光景が見えてこないのです。(デュメイさんは、きっとその光景を見せようと弾かれていたのだと思うのですが!)
特に、音の強弱の付け方。先程も書きましたが、デュメイさんの音の強弱を表すテクニックは大変に素晴らしいです。それをオケも一緒にやろうとしていたのですが、努力も感じるのですが、そのせいで音がばらばらになってしまった部分がいくつかありました。(恐らく、本来の関西フィルさんは違った魅力をお持ちの方々なのだろうなと。)やりたいことは何となく分かったのですが。

それから、第3楽章のトルコ音楽の部分。これも頑張ってデュメイさんが勢いよくつなげようと持っていっていたのですが(大きな足の踏み出しまでして! あの様なつなぎ方、いいですね!)、それにオケが応えられていませんでした。全体的に迫力が足りなかったというか、残念でした。音の世界が小さいのです。力強いトルコの軍隊の行進する姿が浮かんできません。
チェロやコントラバスが『バチ・バチ』 と弓をぶつけながら(?)音を鳴らして演奏する部分も、威厳が伝わってこないのです。優しい日本人の音楽…という感じでした。

辛口で失礼なことを書いてしまいましたが、私個人の感想ということで御了承ください(客観的に見れば、素晴らしい演奏だったと思いますし!)。
私としては、「結構上手くいったよね、いい経験だったね」の一言で終わらせてほしくなかったのです。次につながるような(デュメイさんに次も演奏したい!と思っていただけるような)演奏を聴きたかったのです。なので、そういう目線で聴いていると、オケとして少し物足りませんでした。

休憩を挟んで後半は、今度はマエストロとしてのデュメイさんが登場です!
デュメイさんには当然のことながら指揮台はありません。でも、オケとのバランスが丁度良いのです(笑い) まるで、トリックアートを見ているような、不思議な感覚に襲われました。

デュメイさんの指揮はどうかと言いますと、以下自粛…
というのは冗談ですが、特別デュメイさんの指揮だから…というのは感じられませんでした。ただ、デュメイさんがモーツァルトの K.201 をどのように感じているのか、どう表現したがっているのか、という気持ち的な部分は少しだけ理解出来たような気がします。

話は飛ぶのですが、私がマトリョミンを演奏する時は、右手をOKマークというか「お金ちょうだい!」の形にして、それを前後に動かします。デュメイさんの指揮は、左手でその形(お金ちょうだいの形)を作って、左右に手首を回すのです。それが印象的でした(笑い)
どうしてそのようなスタイルになるのかは分かりませんが…

デュメイさんも、関西フィルさんも、力を入れて弾かれていたのが第3・4楽章だったと思います。ここは特に良かったです!
第3楽章は少し速めな感じ、そして歯切れの良い音で始まりました。途中からは思いっきり伸びやかに。その音の変化の付け方が、やはりデュメイさんらしさなのかな、と。
第4楽章は伸びやかに、リズム良く。そして、力強く! 私も好きな楽章です♪
各パートに次々と指示を出していくデュメイさん。フォル・ジュルネの大友直人さんの指揮を思い出しました。ああ、これで本当に最後なんだな…とこれまでの約2週間のことを思い出しながら、最後まで楽しんで聴きました。

最後がこの曲で良かったと思います。爽やかな、幸せな気分でコンサートを終えることが出来ました。本当だったらデュメイさんの余韻に浸るため、最後の音から5秒間位時間が欲しかったのですが、演奏が終わるとすぐに拍手が起きてしまいました(仕方ないです、涙)。

とても楽しい、充実した5公演。良い思い出になりました。
世界のヴァイオリニストを素人の私がすごいとか、いいとか言うのはまるで説得力がありませんが(汗)、でもすごいのです! この点では私の耳は確かだと思います(笑い)
今回疲れる位に「美しい」「素晴らしい」「感動した」という言葉のオンパレードだったと思うのですが、決して誇張や嘘ではないのです…もう、それしか言葉が無いのです。ははは。

興味を持たれた方は、まずは1度、デュメイさんのアルバムを聴いていただいて…ですね♪

デュメイさんには、またぜひ日本へ演奏しに来ていただきたいです。
素敵な演奏、ありがとうございました。 Merci beaucoup!

2006年10月14日 記

▲上へ
本嫌いさんの読書感想文〜カラマーゾフの兄弟はいつも貸出中?!
YUKIKOGUMA   All Rights Reserved