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川畠成道 Japanツアー 2006 東京公演 ― 今伝えたいことを 心を込めて ― |
【 2006年3月18日(土) in 東京オペラシティ 】 ピアノ:山口研生 第一部 ■ クライスラー:前奏曲とアレグロ ■ ベートーヴェン:ソナタ第9番 イ長調 作品47「クロイツェル」 第二部 ■ ドヴォルザーク:ユモレスク ■ ハチャトリアン:剣の舞 ■ サラサーテ:モーツァルトの歌劇「魔笛」による幻想曲 作品54 ■ グノー:アヴェ・マリア ■ サン=サーンス:序奏とロンド・カプリチョーソ アンコール ■ ショパン:ノクターン ■ ブラームス:ハンガリー舞曲 第5番 ■ タイスの瞑想曲 ■ モンティ:チャルダッシュ ■ ヴィヴァルディ:四季より「冬」第2楽章 |
卒業式のシーズンです! 春だなぁ…と思えるような暖かい日差しの中、川畠成道さんの2006年Japanツアーが始まりました。 本日の東京公演はプログラムA。私にとっては初めて生で聴くベートーヴェンのクロイツェルソナタを楽しみにしながら、東京オペラシティへ向いました。 1曲目の前奏曲とアレグロが始まりました。 うん、うん。やっぱり、これ位の音色(音量)が聴こえてこないとね…と、先日の和光市でのコンサートでの音の届き具合を思い出しながら(私の座った席にはあまり音が届かなかったのです)、今日は良い席に座れたことに感謝をしました。 また、友達に教えてもらった話と自分の感想とをまとめてみると、東京オペラシティでは1階席前列付近、または逆に1階席の後ろ付近、2階席・3階席の両サイドが良いみたいです。(自分でも今後試してみます。)そういうホールごとの情報が分かっていると、チケットを取るときにも大変便利ですね… そして、楽しみにしていたクロイツェルです! 丁度 昨年の今頃、ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポンでクロツェルを聴きに行こうと思っていたので(実際は行くことが出来ませんでした)、スターンとデュメイで何度も何度も聴いていました。あれから随分この曲とは御無沙汰していて(笑い)、この日のために再び聴き始めたのでした。 夏の名残のバラを一瞬思わせるようなヴァイオリンの音色から、クロイツェルが始まりました。 ベートーヴェンのソナタはピアノの旋律がとても重要で、ヴァイオリンソナタではなくてピアノソナタ(ヴァイオリンが伴奏)なのではないかなぁ…といつも思いながら聴いています。このクロイツェルもです。 気になる、本日 伴奏をされた山口さんのピアノ―― すごく、いい! 私の希望通りです!!! 流れて欲しいところで、ポロロン… と気持ちが良い位に、ピアノの音色が流れます。ピアノとヴァイオリンが綺麗に絡み合っています。 そして、川畠さんのヴァイオリン。ものすごい、曲に対する川畠さんの気迫のようなものを感じました。(『弾き方に』ではなくて、『曲に』です。) 私はモーツァルトは柔らか味のあるイメージ、バッハはハレルヤ的なイメージ、そしてベートーヴェンは少し固めなイメージを持っているのですが、その私の考えているベートーヴェンのイメージをそのまま表現したような演奏でした。 聴いていて圧倒されてしまい、第1楽章では自然と拍手が起こりました。とにかくすごい、と。 続く第2、第3楽章も同じ気迫で弾かれ、このクロイツェルは、各楽章ごとに小出しにしても成り立つのではないかと思った位(笑い)、良かったと思います。 なかでも第1楽章がすごかったです。第3楽章も、長い事弾き続けられる高音が擦れることも無く良く鳴り響いて…こんな音が存在するのかと思いました。 今後、ツアーでAプロを聴かれる方が羨ましいです(笑い)私もまた聴きたいです。 また、初めて生で聴いたことにより、このソナタはヴァイオリンソナタでもピアノソナタでもなく、ヴァイオリンとピアノのソナタなんだ、ということに気が付きました。 ヴァイオリンとピアノとの会話のやりとり、時にはお互いがそれぞれ勝手に話を始めて、ある所でぴったりとそろって、また会話を始める… 川畠さんのヴァイオリンと山口さんのピアノがそんな風に聞こえました。 時々ピアノに近づいて、山口さんを確認しながら演奏する川畠さん(オケ以外ではあまりそういうことをしない気がするのですが… 1番印象的なのは、12月24日のシトカベツキーさんとの演奏の時ですね ←思い出してしまいました、笑い)。そんな姿も、川畠さんと山口さんとの調和という雰囲気を生み出しているようでした。2人で演奏しているんだなぁ…と改めて感じました。 余談ですが、クロイツェルの世界にあまりにもはまってしまいましたので、家に帰って本棚にずっと置いたままになっていたトルストイのクロイツェル・ソナタ(この曲を聴いて刺激を受けたトルストイが書きあげた作品)を一気に読みました。 話は長距離雄の汽車の中に居合わせた人たちの会話から始まります。結婚って何なのか、という話題です。愛の無い結婚は結婚ではないのか、愛とは何なのか、と。 その中に奇妙な白髪の紳士がいて、「自分は浮気をした妻を殺した人間だ」と告白をします。そして、その紳士の独自の愛や結婚観を踏まえながら、殺害に至るまでの経緯を「わたし」に語る…という短編です。とても面白い作品です。 ですが、このトルストイの性に対する考えが延々と書かれた作品のどこがクロイツェルと関係があるの?と読んでいると思うのですよね(笑い)全く関係ないじゃない、と。 途中でこの紳士の妻が浮気相手となるヴァイオリニストと演奏会を開き、クロイツェルを弾くのです。この曲は、そのクロイツェル(第1楽章)を聴いた後の紳士の感情を、2人に対しての嫉妬心、そして妻への怒りへと変えていく重要な役割を果たしています。 「二人はベートーヴェンのクロイツェル・ソナタを演奏したのです。あの最初のプレストをご存じですか? ご存じでしょう?!」 彼は叫んだ。「ああ!…… あのソナタは恐ろしい作品ですね。それもまさにあの導入部が。概して音楽ってのは恐ろしいものですよ。あれは何なのでしょう? わたしにはわからないんです。音楽とはいったい何なのでしょう? 《略》 音楽は自分自身を、自分の真の状態を忘れさせ、自分ではない何か別の状態へ運び去ってくれるのです。音楽の影響で、実際には感じていないことを感じ、理解できないことを理解し、できないこともできるような気がするんですよ。 《略》 この音楽ってやつは、それを作った人間のひたっていた心境に、じかにすぐ私を運んでくれるんですよ。その人間と魂が融(と)け合い、その人間といっしょに一つの心境から別の心境へ移ってゆくのですが、なぜそうしているのかは、自分でもわからないのです。たとえば、このクロイツェル・ソナタにしても、それを作ったベートーベンは、なぜ自分がそういう心境にあったかを知っていたわけですし、その心境が彼を一定の行為にかりたてたのですから、彼にとってはその心境が意味をもっていたわけですが、こっちにとっては何の意味もないんですよ。ですから音楽は人を苛立たせるだけで、決着はつけてくれないんです。 《略》 少なくともわたしに対しては、あの作品は恐ろしく効き目がありました。気のせいか、まるでそれまで知らなかった、まったく新しい情感や、新しい可能性がひらけたかのようでした。ああ、こうでなければいけないんだ、これまで自分が考えたり生活したりしてきたやり方とはまったく違って、まさにこうでなければいけないんだ、と心の中で告げる声があるかのようでした。わたしがつきとめたこの新しいものが、いったい何だったのか、はっきりさせることはできませんできたけれど、この新しい状態の自覚はきわめて喜ばしいものでした。」 (新潮文庫 / 原卓也訳 P108-9) さすが文豪ですね…。同じ曲を聴いても、想像する幅の広さが違います。 この作品を読んだあとに再びクロイツェルを聴くと、第1楽章から受ける雰囲気が違ってくるから不思議です。より深みが増すと思います。>ぜひ、お試し下さい。 長くなりましたが、話は戻って後半です。 再び舞台に登場した川畠さん―― 剣の舞用にタップシューズを履かれていました。(サラサーテの魔笛では元の靴に履きなおされていました。)服も山口さんとおそろいの(?)襟元が人民服のような、詰襟のような感じの白い服に着替えられています。 ユモレスクでは、低音・重音がうっとりする位に響き渡りました。川畠さんのユモレスクはとても好きです(曲自体はそれほど好きでもないのですが、笑い)。 サラサーテ:モーツァルトの歌劇「魔笛」による幻想曲。 私の知らない曲です。初めて聴いたので、曲を楽しむというよりも曲を学んだ、という感じです。良く分からないけれども すごいな、と(この曲については、予習した方が楽しめると思いました)。 アンコールです(多少、記憶に曖昧な部分があります)。 「美味しい(豪華な、だったかもしれません)食事、美味しいディナーには…といっても、自分の演奏が美味しいと言っている訳ではないのですが(笑い) 美味しい食事の後にはデザートが付くように、プログラムは終わりましたが、まだまだ続きます。」 …と、そのようなトークから、アンコールが始まりました。 4月15日にミューザ川崎で、「生命(いのち)の輝き」というコンサートがありますが、これはホスピス、養護施設等の医療・福祉施設などを訪問して、川畠さんのヴァイオリンを多くの方に聴いていただき、何かの糧にしていただきたい、というプロジェクトを運営するためのチャリティ・コンサートです。 「ここはオペラシティなので、こちらの方には申し訳ないのですが…」と前置きをして、ミューザ川崎のコンサートを何度も御紹介されていました(笑い) この日は久しぶりのダニエル・ベン・ピエナールさんの伴奏♪ これは聴きに行かないと、ですね! また、4月はアメリカ・ワシントンでコンサートがあり、その前日にラジオに出演されるそうです。「普段はイギリス英語ですので、アメリカ英語がどの程度まで通用するのか心配です…でも、大変楽しみです」 とのこと。 「私はこれまでに7枚のCDを出させていただきましたが、昨日初めてのDVDが発売になりました。これは、昨年イタリアのボローニャで演奏しましたヴィヴァルディの四季、そして12月に発売しましたCDに四季と一緒に収録されていますバッハのドッペルの協奏曲のために、セニダリアという場所で演奏した映像などが入っています。」 春になってきましたね…という話題があったので、春・第1楽章を弾いてくださるのかなぁと思っていたら、最後はヴィヴァルディ四季より「冬」第2楽章(ピアノとでしたら、これが1番良いですね!)を美しく弾いて下さいました。 この冬を聴いて、6月16日に同じオペラシティで開かれるボローニャとのコンサートがとても楽しみになってきました。すごい四季が聴けると思います。ボローニャさんたちの演奏も楽しみ♪ (一部ファンの間では「今世紀最大のコンサート」との声もあります、笑い>その通りですとも!) 最後の最後に、ピアノの前に出て寄り添うように川畠さんと山口さんがお辞儀をされて、暖かい拍手と笑いの中、コンサートは終了したのでした。 2006年3月19日 記 |
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